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単なる自動車事故では無かった

 昼前には今朝の被害者氏名及び被害現場全てが明るみに出た。

 半身の元死人だった人物が普通乗用車の持ち主である東原ひがしばら滋治しげはるであり、運転していたのがその妻美恵子で在った。

 後部座席の小さな焼死体は彼らの子供達である。

 そして、軽自動車の所有者は高部たかべ智成ともなりであり、現在行方不明だ。


「意味わかんないよ。激突された車の方にあの死人が乗っていて、死人が乗っていたと思われた軽自動車の運転手が行方不明だってね。死人の下半身は自宅にあったよ。」


「そうか、確認ありがとう。悪いね、グロいモノを見せてしまって。」


 楊の労いに水野は涼しい顔で「大丈夫っす。」と軽く答えた。

 彼女はグロい物には耐性が無かったのではないのかと楊が訝しんだその時、水野がニヤっと笑ってネタばらしをした。


「確認は五月女君にさせました。彼、使えますね。外見通りの前時代的な感性を持っていますから、お願いしたら気持ちよく血塗れの被害現場に乗り込んでくれましたよ。」


「それで五月女君はどうして報告に来ないの?現場を見た人の報告こそ欲しいなって僕は思うのですけどね。」


「仕方ないですよ。ただいまトイレで気持ちよく吐いていますから。」


 溌溂と答えた水野に楊はがっくりとした。


「君は相変わらず酷いね。以前俺に女性を気味の悪い物から遠ざけるのは女性差別だって抗議していなかった?」


「あたしは成長したんです。それに女性だからこそ連帯って必要なんだって。ねぇ、さっちゃん。」


 水野の脇に立っていた佐藤は、その妖精のような大きな目を妖精のように悪戯っぽく微笑ませた。

 楊はその表情に、部署の女性達に突き上げを食らったあの恐怖の日が、彼女達にはただの楊苛めというお遊びだったのだと知った。


「二人ともどうでもいいのだったら、そんな連帯感出さないでよ。杏子ちゃんは真面目なんだから本気で後塵の為だって頑張っちゃうでしょ。」


「でもさ、あん時は何か刑事っぽい仕事を回して欲しいなって思っていたのも事実だもの。今だったら叱り付けちゃう、あの日の自分。」


「そうよ。最初に特対課の仕事内容をきっちり伝えないかわさんの説明不足がいけないの。私達は純粋なだけよね。」


 大きく舌打をした楊に彼女達は軽く笑うと、水野が報告の続きを始めた。


「おかしいの。いつもの死人と違う感じ。まぁ、まずいつもの死人の方からいきますけど、近所の話では被害者東原滋治は昨年から鬱で休職中で、奥さんの美恵子さんが外で働いていたそうですね。でも、パート。その割には生活ランク落ちてないって感じ。事故車も外車でしたよね。それで、急な欝になる前に東原が近所の子供の自転車で大怪我を負ったというから、もしかしたら。」


「そうだね、多分そこで死人化したのだろうね。」


「かわさんの訪問した高部家はどうだったのですか?」


「うん?普通の一家惨殺現場でしたよ。鈍器と包丁で老夫婦が惨殺されていたね。室内に落ちていた通帳や借用書が高部智成名義でね、そこで高部家の経済状態やら何でもをと佐藤に調べてもらっているのだけど、どうだった?判っている所だけでいいよ。」


 そこで、別の軽やかな声が楊の代わりに報告をはじめた。


「高部家は東原滋治の事故に対して加害者側の親ということで自宅を売り払って慰謝料を支払い、その後も月々の生活費を払っていますね。その自転車事故を起こした高部たかべ祐樹ゆうきが高部智成の弟です。そして祐樹本人は事故後行方不明です。近所の話では謝罪に出かけた後に行方不明だそうで、兄の智成が弟の行方不明のことで両親を責める大声で、近隣住人から警察が何度か苦情を受けています。」


「被害者側の要求に従って払い続けて破綻した家か。自転車事故の方も東原の乱暴な運転で勝手に自損事故を起こしたって警察の報告書にはあったね。勝手にハンドル操作を誤って電柱に激突。ただね東原側の親族があの辺りに多くてね、ちょっとガラが悪い奴ら。彼らが高部家が慰謝料を払って引っ越すまで毎日押しかけていたってね。もしかしたら、高部家が東原家に手渡していたのは慰謝料ではなく、誘拐された息子への身代金だったのかもしれないな。」


「かわさん、一人でそこまで調べていたのなら、私の仕事は必要なかったですか。」


「必要性大でしょう。警察に相談に来た高部たかべ香奈かなの話した内容が君のお陰で裏づけが取れたからね。集団で恫喝してただの目撃者の一家を潰したってね。後は智成を見つけ出して出頭を促すかな。心神喪失と自首で罪をできるだけ軽くしてあげたいね。東原の従兄弟達に乱暴された大学生の妹の香奈さんのためにもね。」


「あの、そこで違う死人の話です。」


 佐藤が言い難そうに口を開いた。


「え、まだいるの?死人。」


「だから最初に言ったじゃん。いつもと違うって。」


 楊は既に聞きたくないと耳を塞ぎたかったが、今は代わりに聞いてくれる髙がいないかったと、乾いた笑い声をあげた。

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