髙さんたら、また計画通り?
髙夫妻はホテルでフレンチという手もあったが、譲によるドライブ観光と牧場でのお遊びとディナーに二つ返事で参加した。
それならば愛犬と長く一緒に遊べるとの優しい考えだ。
まぁ、雪深いこの辺りをドライブして、馴れない人に「遭難」という危険に遭って欲しくないし、梨々子と淳平の預け先が必要と髙に駄目元で相談してみたのだ。
髙は僕の提案に喜んで乗ってくれた。
それでも奥入瀬渓流や十和田湖までは連れて行けなくても、譲の車で近所の美しい冬の渓谷を案内できたので良かったと考える。
山深い自然豊かなこの辺りでは、木々に蜘蛛の巣が張ったような樹氷や小川まで凍った風景を楽しめるのだ。
「梨々子ちゃんはこの後もクロちゃんについて新潟まで行くのね。」
「そうなの。船上パーティって初めてだから楽しみで。クリシュがそれ用のドレスをプレゼントしてくれてね、今回の花嫁付添い人のアルバイト料よって。それがすごく可愛いドレスなの。」
梨々子はドレスを思い出したか、顔を上にむけてうっとりとした顔をした。
アッシュブラウンの腰までの長い髪を食事の邪魔だからと男前にきっちりと結っているためか、つるりとした額がテカっと光って少々間抜けだ。
え、光って?
「え?」
由貴がスマートフォンで梨々子の額に光を当てており、久美が彼女のその間抜け写真を撮って喜んでいた。
酷いな。
本人は何も気がついていないが、多分その間抜け顔写真は楊に送られるのであろう。
アミーゴズと楊は年は違うが本気で仲良しである。
「いいわね。楽しそう。メールしてね。今回の結婚式も前夜祭も凄く夢みたいで楽しかったから、船上パーティも本当に楽しそうよね。」
梨々子と同じようにうっとりと語る杏子は、ホラーが大好きの不思議ちゃんでもあるが、夢見がちな乙女系の人でもあった。
年は離れているが梨々子と似たタイプで、前夜祭でも式でも二人で固まって楽しそうであったなと、ぼんやりと思い出した。
「杏子ちゃんも、来る?」
僕は何気なく口にして、口にした途端になずなの顔までもパッと浮かんでいた。
あの子は武本の家で、ずっとクウクウ鳴き続けていたのだ。
多分髙が彼女を今日迎えに来るまで。
それでも勝手なことを口にしたかもと髙をと見ると、なんとなく「計算どおり」の顔で、髙の後ろから顔を出しているなずなまでも期待した顔に見える。
「髙さん。もしかして、髙さんの申請した休暇は三十一日までだったりします?」
彼はパッと口元を押えて、溢れてきた微笑を隠すではないか。
トントンと肩をつつく淳平に振り向くと、「甘やかし過ぎだよ。」と彼は僕に囁いた。
「髙さんは君達に犬を預けた後に夫婦水入らずをするつもりで、長期休暇を申請していたの。この展開も絶対計算しているね。」
「山口、君の傷病休暇をとってもスムーズにして上げたのは誰かな。」
髙がおどけているが、とっても怖いオーラを背負っての山口へお微笑だ。
山口は彼よりずっと小さい僕に、髙から隠れるように体を寄せた。
否、良い機会だと僕の体に触れているだけの助平だ。
髙の薫陶を受けた彼は使える状況は使うという、さすが元公安である。
「それじゃあ、帰京は新潟空港から羽田か?チケットが今から取れるのか?」
当たり前のことを言い出した良純和尚に、僕は髙に振り返った。
髙は軽くウィンクして、チケットをぴらぴらさせた。
「最初から新幹線で新潟から東京です。レンタカーも手配済み。」
きゃあっと杏子の嬌声が上がった。
僕はハハハと乾いた笑い声を出してから、ジェットを操縦するアミーゴズに振り返った。
彼らは大丈夫と指でサインをした。
「予定の孝彦ちゃん達が乗らないから大丈夫。あと一人くらいの余裕もあるよ。」
由貴の言葉に僕が再び髙に振り返ると、いつのまにか杏子が彼にしなだれかかっていた。
「私はあなたにどこまでも付いていくわ。なんて最高な人!」
イヤ、連れて行くのは僕達だし。
そしてこれが東京の警察かと、正しくは神奈川県警だけれど、親戚の譲が呆れているかと彼を見返したら、彼は物凄くうきうきした顔をしていた。
「おじさん。どうかしたの?」
譲はにやっと笑顔を作った。
「ミミちゃんも連れて行ってあげて。今夜の夕食代いらないから。それで、あと一人ならば僕も乗れるかな?」