表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

序章

 ゲリラ戦はいかに少ない人数で敵に多大な被害を与えられるか、その結果に尽きるものである。

 過去の戦績を思い出しながら、彼は書類束から幾つかの事案を取り出した。


 まず、営利誘拐犯の共犯者。


「そろそろ保釈してあげるか。刑期が短縮すぎるけど、あまり、どころか一切騒がれなかった事件だし、いいよね。これは必ずなのでしょう?」


 誰もいない資料室で彼は友人に語り掛けるように話し声を上げ、そして手に持ったファイルをぽんと机の上に放った。

 ファイルが落ちた先には小型の銀色のトカゲがおり、それが潰されまいとひょいっと避けた。


 次にリンチ殺害犯の三人。


「一人だけ成人だからっての刑務所暮らしは、一人で可哀相だから出してあげよう。後の二人は真面目に同じ会社に勤めているようだから、友人のよしみで同じ会社に彼も雇って貰えるかもしれないね。あるいは二人とも首になって三人仲良く職探しかな。近隣の皆様にも、戻ってきた友人のお陰で過去がばれちゃうから大変だ。更生したと思い込んでいてもね、被害者家族に何の賠償もしていなければ、反省などしていないとみていいよね。」


 くすくす笑いながら先程のファイルに重なるように、手にあるファイルを今度もぽんっと投げた。

 ぽすっとファイルが重なり、トカゲはぽすっときた空気に軽く転がった。


「次は、これもいいよね。これは一族全員いっちゃおうか。ろくな奴等じゃないものね。自分の失敗をよそ様の子に濡れ衣を着せて、それを謝るどころか、親戚一同で襲い掛かるなんて、信じられなーい。」


 そのファイルは先程のファイルと違う左側に投げられた。


「これは。うーん悩むなぁ。それなりに罰は受けている気もするけど、うーん。被害者達の救済はまだってか、家族が崩壊した一家もあるし、傷跡を理由に自殺しちゃった子もいるからね。いいか。」


 わざとらしく悩んだ振りをしながらも、決めていたように左側にポンっと投げる。


「これは見なくても考えなくても右だね。」


 そして、同じようにぶつぶつと男は呟きながら、右へ左へとファイルを振り分けていく。

 小一時間もかからずに手持ちのファイルが無くなると、男は選抜隊と書かれた封筒に右側の山のファイルを入れ、左側は普通の茶封筒に入れた。


「あぁ、いけない。動き出すためには動力が必要だ。」


 男はクスクス笑いながら懐から写真を三枚取り出すと、胸ポケットに挿していたペンをすっと手に取った。


「きれいでしょう。この万年筆。子供からの贈り物なんだよ。」


 トカゲに菖蒲の絵が描かれた金属の柄を見せびらかしてから、彼は裏にそれぞれ一文字の漢字を書き込んだ。

 そして万年筆を大事そうに胸ポケットに戻し、写真を茶封筒に入れ込んでから完全に封をした。


「ああ、そうだ。これが何かわからないと皆様が混乱してしまうね。」


 トカゲは男を見上げてニカっと笑ったような表情を作った。

 すると、くすくす笑いながら男は鞄から油性ペンを取り出して、茶封筒の表面に一文字書き込んだ。

 誰もいない資料室で、マジックのペン先の音が、キュッキュと嫌らしく鳴り響く。

 男が満足そうに矯めつ眇めつ見る茶封筒に描かれた文字は、「餌」であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ