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 こうなったのは全部俺のせいだ。

 俺が謎を解き明かそうとしなければ……。

 ただのカーバンクルでいれば……。


 だが俺はそうしなかった。

 死の運命にさからい、強敵を倒してダンジョンを制覇した。

 ヴィオニック禁呪図書館の下には地下迷宮ダンジョンが広がり、それはドワーフ族の王国の廃墟に繋がっている。

 なぜドワーフ族が滅んだのかミュウルニクスが教えてくれた。


 かつてドワーフ族は人間と同盟を結び、魔獣デーモン族や不死アンデッド族と戦った。

 だが勝利のあと、暁の領域の民は《守護神(ガーディアン)》の仕向けた宗教戦争により、分断されてしまい……。

 そしていつか彼らは不浄の神グレムコロイトゥスの力に魅入られるようになった。

 不死の研究。王国を守る為の研究だった。

 王国の中央に《死神ヘグファルト》を祀る神殿が建てられた。

 そして何度も神降ろしの儀式が行われたという。


 ドワーフ族は《死神ヘグファルト》と《死に戻り》スキルの研究をしていた。

 だがスキルに溺れるようになった。

 彼らはみな生ける骸骨と成り果て、永遠に《死神ヘグファルト》に従属している……。


 エルフ族とドリアード族のある者たちはグレムコロイトゥスを完全に消滅させる術を求め、世界の各地へと散って行った。

 またある者たちは《守護神(ガーディアン)》同士の争乱に嘆き悲しみ、島を離れた。

 残された人間族は封印されたグレムコロイトゥスの監視者として、このエマジア島に残った。


 地下迷宮ダンジョンの下。

 ドワーフ族の王国の廃墟の下。

 はるか地底の奈落の下。

 そこでグレムコロイトゥスは眠っている。



 そして《守護神(ガーディアン)》の1柱である《死神ヘグファルト》はその復活を望んでいる。

 みずからが神王の座につくため、その力を求めている。


 ミュウルニクスたちに永遠の命である《死に戻り》スキルを与えて、グレムコロイトゥスを復活させる方法を探させていたんだ。

 おそらく古代の獣人族はヘグファルトに対抗したのだろう。

 だが戦いに敗れて、ドワーフ族と同様にヘグファルトの眷属に……。



 アンデッドやデーモンに対抗できる最大の武器は光だ。

 照明魔法を操るカーバンクルは、ヘグファルトにとって脅威だったに違いない。

 たぶんミュウルニクスは俺を殺すようヘグファルトから命令を受けていた。

 だから魔物を召喚して俺に戦わせていたのか。

 あれは単なる遊びじゃない……。

 ほんとうに俺を殺そうとしていたんだ。

 でもできなかった。


 マリアも。

 彼女も領主を助ける為にヘグファルトと契約した。

 心の隙間をつけ入れられた。

 ヘグファルトの忠実な戦闘兵器として利用されていた。


 だが俺を殺せなかったとすると、ヘグファルトは黙っていない。

 マリアとミュウルニクスも殺すはずだ。


 そんなことはさせない。

 やはり俺はただの獣で居てはならない……!


 俺は画廊に向かって疾駆した。

 まだやり直せる。


 エドワードがいた。

 煤に塗れ、床に崩れ落ちている。

 まだ生きている……!


 トドメを刺すため、ヘグファルトが拳を突きだしている。

 鋭い爪がナイフのように伸び、今にもエドワードを引き裂いてしまいそうだ。


 俺は《照明魔法》を発動した。

 意識を集中させて、額の石から光があふれる。

 《カーミラの首飾り》の効果で、光が集束して1本のツノのようになった。

 光り輝くツノ。

 そのツノで俺はヘグファルトの胸をえぐった。


 心臓のあるべき場所に、赤い球体のようなものが見える……!

 あれは奴がこの世界に具現化するために必要な神器──いわば奴の核だ。

 あの核を破壊すれば、ヘグファルトは消滅する!


 着地した俺は、すぐさま奴の核めがけて飛び掛かった。

 だが奴の放った魔法が、その青い炎が、容赦なく俺に降りかかる。



「さすがだな。やはりお前は転生者トラベラーだけあって強い。

 あのアラクネアが、俺を止める為に送り込んだ刺客ってわけか?

 あんな奴と契約してどうなる?

 奴はお前を利用することしか考えておらぬぞ。それでいいのか?

 それなら俺と契約しろ。

 俺の力で、お前を再び地球に帰してやろう。前世の記憶を持ったまま、地球でお前はまた赤子からやり直せる。今度は目もくらむような素晴らしい人生を送れるぞ」



 また母親や父親に会える?

 俺の腐った人生をやり直せる?


 心が揺れる。


 でも。

 でもそしたらマリアとミュウルニクスはどうなる?

 エドワードは?

 この世界に住む全ての人間たちは?



「お前には関係ないことだ。俺はグレムコロイトゥスの力で邪魔な《守護神(ガーディアン)》どもを消してやりたい。

 そして神王の座について、この世界を統べる。

 安心しろ。お前は地球に転生させよう。

 もういちど母親とやり直せ。次はもっと素晴らしい青春時代を送れ。お前ならできる。それが互いにとって最高の結末なのだ」



 いつの間にか光のツノが消滅していた。俺の闘志がしぼんでいく。

 戦意を失い、俺は唯ぼんやりとうつむいていた。

 ヘグファルトが俺のもとに歩み寄る。



「なにも恥じることはない。お前のような善良な者が、こんな場所で朽ち果てる必要など無いのだ……。

 むしろお前はアラクネアに利用されていただけの存在。

 アラクネアめ。あやつは何度も俺の邪魔をしてくる。まったく罪深い奴よ。

 さあ、もう終わりにしよう。俺を守護神として選べ。我が加護の力を引き出し、お前を元の世界に転生させてやる。

 心配するな。お前はただ心の中で《ヘグファルトと契約する》と唱えればよい」



 ヘグファルトよ。

 ひとつだけ間違っているぞ……。

 俺がここにいるのは、アラクネアの指示じゃない。


 俺自身の意思だ!


 俺はこのタイミングを待っていた。

 奴が近づいてくる絶好のタイミングを……!

 俺は跳躍して、奴の懐に入った。

 いっきに《照明魔法》を発動する。

 俺は光のツノで、奴の剥き出しの核を狙った……!


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