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 他にも疑問がある。

 伝承では、たしか獣人族は宵の領域の軍勢に属していた。

 魔獣デーモン族や不死者アンデッドと同盟を結んでいる。

 そしてもう少しで暁の領域の軍勢を滅ぼせるところまで来ていたのに……。

 なぜ魔獣デーモン族や不死者アンデッドを裏切った?


 人間やエルフ達からしたら、その反乱は好機だったに違いない。

 でもなぜそんなことを?



「それはアイツらが密かにおこなっていた儀式のせいね。やつらは獣人族を生贄にしてグレムコロイトゥスの力を強化をしていたから。生きた血を持たない不死者アンデッドや、そもそも血を持たない魔獣デーモン族では生贄になり得ない。だから生きた血が必要だったの。はじめは捕虜を生贄にしていたけど、やがて数が減ると、今度は私たち獣人族を生贄の対象に選んだの」



 ミュウルニクスが遠い目でささやく。その瞳にはどこか憎しみが籠もっていた。

 はじめからそのつもりで同盟を結んでいたとすると、本当に酷い話だ。

 魔獣デーモン族や不死者アンデッドは、同じ軍勢の獣人族を道具としか見てなかった。

 宵の領域の軍勢は、魔獣デーモン族や不死者アンデッド族、そして獣人族の間に溝があったらしい。

 獣人族が反乱をおこしたのも当然の成り行きだ。


 だがそれでも魔獣デーモン族や不死者アンデッドの軍勢に勝てるとは思えない。

 だってあの《やもり竜(サラマンダー)》や《大地を喰らう蛇アースイータースネーク》よりも強い魔物がうようよ居たんだろ?

 それに彼らは《死神ヘグファルト》から相手の血を浴びるたびに体力が回復するという能力を授かっている。

 そんな滅茶苦茶な奴らをどうやって倒したんだ?



「はい。たしかにミュウルニクス率いる獣人族が反乱を起こして、宵の領域の軍勢は混乱しました。でもそれも長くはもちません。すぐに奴らは態勢を立ち直して襲ってきました……でもね、ミュウルニクスさんたちはやったんですよ。見事に不死者アンデッドどもを滅ぼす方法を発見したんです……それはね……」




 マリアが先を続けようとする。

 でも俺はそれを制止した。ちょっと待ってほしい。自分で考えてみたいから。


 ミュウルニクスがどうやって、魔獣デーモン族や不死者アンデッド族の殲滅に成功したか?

 俺がこれまで見てきたものの中に、きっとその答えはあるはず。


 魔獣デーモン族や不死者アンデッド

 それらは負のエネルギーをまとう闇の眷属だ。

 ゆえに対となる生命のエネルギーを嫌う。

 神聖魔法や光魔法。


 光?

 そうだ。

 奴らは俺の照明魔法に怯んだ!

 そして獣人族はルーン文字や《言葉(ことのは)》魔法を操ることができる……。


 ならば強力な光魔法を発動できたはず。


 奴らが恐れる光を利用したんだ。

 やっと分かったよ。



「分かったんですか? ほんとうに? さすがフューリーちゃんですね!」


「ほう。どうやったか分かるか?」



 俺が首から下げている《カーミラの首飾り》。

 持ち主の魔力を何倍にも引き出す効果がある装飾品アクセサリーだ。

 これは獣人族のルーン魔法の知識と、ドワーフ族の碧魔鋼ミスリル加工技術の知識、両方を合わせた逸品だ。

 生産技術の高い人間族とドワーフ族が、《カーミラの首飾り》を量産すれば……。


 そして《言葉(ことのは)》魔法を操るエルフ族や獣人族がこれを装備していっきに攻める。

 他の種族の戦士達は彼らの防衛にあたる。

 でも地上には強力な魔物がはびこっている。

 不浄の神グレムコロイトゥスのもとに辿り着く前に全滅してしまう。


 となればどうすれば……。

 そうか。


 地下を通って行けば、隠密に移動できる。

 ドワーフ族の地下通路を利用して、宵の領域の最深部へ潜り込む。

 そして敵感知魔法や索敵スキルの能力に長けたドリアード族が、不浄の神グレムコロイトゥスの居場所を突き止める。


 そして少数精鋭の奇襲部隊が、無駄な戦闘を避けながら、グレムコロイトゥスの背後へ忍び込む。


 そこまで説明したら、マリアやミュウルニクスがハッと驚いた表情かおをした。

 どうやら俺の推理は当たっているらしい。


 そしていっきに奇襲を仕掛ける。

 問題は戦い方だ。

 《死神ヘグファルト》の能力付与により、やつらは血を浴びるたびに体力を回復する。

 これでは戦いが始まると圧倒的に不利になる。

 血を持たない兵士が必要だ。


 血を持たないもの……?

 ゴーレムなら?


 ミュウルニクスの得意な服従魔法は使えばどうだろう?

 俺が戦った《椅子の怪物》のような、無機物のゴーレムをたくさん産み出して、戦わせれば。

 血を持たない魔獣デーモン族や不死者アンデッド族は……回復できなくなる。

 さらに光魔法を発動して、奴らを大きく怯ませてやれば。



 《死神ヘグファルト》の能力付与……。

 その能力を与えられたのは、戦闘力の高い一部の選ばれた者だけ。

 つまり全部が回復するわけじゃない。

 回復する奴らを見つけて優先的にゴーレムと戦わせればいい。


 でもそれだけじゃ足りない。

 周囲にはAランク《統率魔族《ルーラーモンストルム》》階級(クラス)やBランク《高位魔族《ハイモンストルム》》の魔獣デーモンや不死者がたくさん居る……。

 そいつらを抑え込むにはゴーレムだけじゃ足りない。

 陽動作戦のため地上に千人規模の軍隊を駐留させておく必要がある。


 そして100人ほどの魔術師……《カーミラの首飾り》で強化されたエルフ族や獣人族が、グレムコロイトゥスの居場所を探り当て、密かに追跡する。

 いざ戦闘になれば、ルーン文字や《言葉(ことのは)》魔法を駆使して、不浄の神グレムコロイトゥスをいっきに叩き潰す。



 たぶんこれで理論上は勝てるはず。

 それでも犠牲は多くついただろう。

 悲惨な状況になるが、これ以上に有効な手はない。

 今のこの世界を見るに、魔獣デーモン族や不死者アンデッド族は戦いに敗れた。

 暁の領域の軍勢が戦争に勝ったんだ。


 だがミュウルニクスがさえぎった。



「さすが世界で最も賢いカーバンクルね。本当にお前は優秀だわ。まさにそのとおり。でもちょっとだけ違うの。実はそれでも戦争は終わらなかった……やつは……グレムコロイトゥスは私達が想像してた以上の化け物だった……」



 え……?

 ど、どういうこと?


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