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 敵の姿は見えないが、無数の視線を感じる。殺気に満ちた視線だ。

 建物の陰や屋根の上といった死角からも、何か動く気配がする。

 レオンハルトは自慢の大型クロスボウをかまえた。



「例の作戦でいくぞ。まず壁役のオッドシュタインが突撃して敵の注意を引く。その間にニーナが魔法を詠唱して、皆に強化補助をかけてくれ。そしたら、俺とジュディーで一気に賊どもを叩き潰す!」


「応!」


「分かりましたレオンハルト様」


「いいわ、私に任せて!」



 皆の声援を受けて老騎士オッドシュタインが水溜りの方に向かって突撃する。それを待っていた様に、水中から触手が飛び出した。

 まるで無数の棘で武装した蛇の様な触手。その棘が勢いよく周囲に飛散した。

 あの蠢いている触手は《沼クラゲ(マッドファントム)》と呼ばれえる魔物だ。

 《沼クラゲ(マッドファントム)》の触手の棘には毒がある。受ければ、たちまちに体が麻痺して動けなくなる。



「チッ! 賊じゃなくて化け物かぁ!」



 だがオッドシュタインは鋼鉄の盾で、棘をあっさりと弾き返した。

 そのうえ着ている鎧は頑丈で、棘を1本たりとも通さない。

 《沼クラゲ(マッドファントム)》の本体が浮き上がってきた。

 知能のない原始的生物は、さらに多数の触手を水面上に突きだして、立て続けに針を飛ばしてくる。



「地母神アレイスターの聖名みなにおいて命ずる。永劫の時にひずみし精霊達よ。その麗しき御手で我らの魂を厚く抱擁し護り給え……」



 ソーマホーク寺院でも随一の癒し手とされる可憐な少女の、その杖の先に光芒があふれた。祈りの言葉と共に、杖の先端が宙にルーン文字をえがく。



「行けますよ。全員に状態異常無効化と防御力強化の補助魔法をかけました」

「オッドシュタイン、ジュディー、反撃だ。派手にかますぞ!」



 この瞬間を待っていたと皆が武器を構える。レオンハルトが大型クロスボウを構えて、魔物の前に躍り出た。

 トリガーを引くと太い杭が連続で射出され、哀れなクラゲは飛び散って底に沈んだ。だがまた数匹浮上してきた……!



再装填リロードだ……! オッドシュタイン、残りを頼む!」

「応! 我が奥義スキル《真空破斬零式》を喰らうがいい……!」



 突撃するオッドシュタインに向かって無数の棘が飛来する。

 だが光の壁が棘を受け止め、焼き尽くす。

 老騎士は豪快に水溜りに飛び込むと、戦槌を高く構えた。

 鉄錆びた槌が陽光を反射して光かがやく。横になぎ払う。それが早すぎて俺には見えなかった。

 見えたのはその切っ先の光の軌道だけ。原始生物の群れは真っ二つに裂けて、水の中に消える。



「みんな、うしろにも敵が……!」



 ジュディーの声だ。


 彼女の言う通りだった。

 草藪の中、藁ぶき屋根の上、そして壁の裏から細い影がぬうっと現れた。


 いや。

 人の様に見えたが人ではない。

 奴らは骸骨だった。

 黒い粘液が絡まり、それがまるで筋肉の様に伸縮して骨を動かしている。

 あの黒い粘液は死体に寄生する《スライム》の一種らしい。



「こいつら……Cランク《上位種(アンコモン)階級(クラス)のスライムゾンビだ……」



 そういってオッドシュタインが、アンデッド共に憐れむような目を向けた。

 背後からレオンハルトがやって来て、オッドシュスタインの肩をぽんと叩く。



「なるほど。野盗共の成れの果て、てわけか……。なあ、だったらアイツらを苦しみから解放してやろうぜ……」



 やはりというか、隠れ家を襲った野盗団は魔物に襲われて全滅したらしい。

 いつの時代も悪党の末路とは悲惨なものだ……。


 スライムは炎に弱い。

 これは冒険者なら常識だ。

 ジュディーが銀のスティッキを高く掲げ、精霊契約魔法《燃えたぎる火球(ファイアボール)》を詠唱する。

 時間を稼ぐためにも、オッドシュタインがスライムゾンビの群れに突撃した。

 奴らは錆びた斧や折れた剣で襲い掛かって来るが、彼の大盾の前では無力だった。

 その隙にルーン文字を書き終えたジュディが《燃えたぎる火球(ファイアボール)》を発動し、あたりを火の海に変えていく。

 スライムゾンビ達は松明にように燃え盛り、激しく暴れながら、塵に還っていった。



「ジュディさん、うしろに魔物が……!」


「しまった……!」



 ニーナが叫んだ。

 ジュディーは契約魔法の詠唱に気を取られていた。

 ……よって背後から忍び込んで来たスライムゾンビ達に気づいてなかった。

 粘液の絡まった骸骨が、錆びた剣を彼女に向かって振り下ろす……!



 ここで俺の出番だ!

 俺は冷静に対処した。レオンハルトに合図を送る。頼むから目をつむっていてくれ。



 電撃が体の芯を突き抜ける、痺れるような感覚。

 電撃は芯を突き抜けて額に集中した。

 わずかに熱を帯び、額にエネルギーが蓄積されていく感覚だ。

 これまでになく強力な《照明魔法》を放射した。


 スライムゾンビ達が突然の閃光におののき、どっと崩れ落ちていく。

 ……よかった。ジュディーを狙っていたスライムゾンビも悶えている。

 その隙に彼女が間合いを取る。



 1、2、3……。

 レオンハルトが数をかぞえてる。

 連射式大型クロスボウを骸骨に向かって構える。

 奴らの頭蓋骨の、その眼窩の空洞が、ほんのりと赤い光を宿している。

 ぎらぎらと燃える赤い瞳のように。


 それは頭蓋骨の中に隠れているスライムの核だ。つまりそれが弱点。



 「4、5匹か……。だがクロスボウの矢はたんまりある」



 レオンハルトは残りの杭を確認して、そう静かに呟いた。

 彼は卓越した腕で、確実にスライムゾンビ共にヘッドショットをかましていった。

 やがて襲撃者は全て沈黙した。


 ニーナの補助魔法の効果が消えると同時に、彼らの周りから青い保護光が消え去る。

 そのとき凄い地鳴りがした。


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