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もうすぐアジトに着く。
ここへ来るまでに、俺は例の紙とコインを使い、レオンハルトと会話を試みた。
ゆえにいろんなことを知った。
ヴィオニック禁呪図書館の地下には広大なダンジョンが広がっている。
それは古代に栄えていたドワーフ族の王国の廃墟だ。
そしてドワーフ族の戦士が信奉していたのは、《守護神》の1柱である死神ヘグファルト。
その《死に戻り》スキルにより、ドワーフ族の戦士は圧倒的な戦力を誇った。
だがやがてその力の欲に溺れて、彼らはアンデッドモンスターに成り下がってしまったと云う。
いまでも地下迷宮の中を、その成れの果ての骸骨らが彷徨っている。
それに数百匹にも及ぶ死骨狼が徘徊している。
あれはドワーフ族と同様に、力に溺れた古代獣人族の成れの果てだ。
特に獣人族の中でも、四つ足で駆ける狼の姿をした者たちがいた……。
彼らは暗殺者として、闇に紛れ、汚れ仕事をしていたらしい。
つまりは死骨狼の正体は、古代獣人族のアサシンたちだ。
かつての俺──いや俺が憑依する前の《このカーバンクル》とレオンハルトは、ダンジョンの最深部で、その骸骨どもに襲われたらしい。
その先には《死神ヘグファルト》を崇拝する巨大な神殿があった……。
死神ヘグファルト……。
ドワーフ族の王国を滅びして、その奥にどんな秘密を隠しているのだろう……。
そうしてる内に森を抜け、アジトに到着した。
そこは農村の外れで、掘っ立て小屋が1軒建っているだけだった。
ここが義勇軍のアジトか……。
もっと大きな要塞みたいな建物を想像していたが。
でもまあ木を隠すなら森の中という。
屋敷に攻め入ったのは、ほとんどが農民あがりの民兵だった。
義勇軍がほとんど農民で構成されているとなると、アジトもこういう場所が最適なのかもしれない。
さて小屋の扉を開ける。
中には鉄の防具に身を固め、剣や槍で武装してる男達がいた……。
あれはおそらく冒険者達だろう。
冒険者ギルドに対する圧政、消耗品という不遇の立場から、彼らは領主に反旗を翻して、義勇軍の傭兵になったと考えられる。
そして予想した展開が起きた。
「おお。レオンハルトさま、よくぞご無事で……」
「それにヴェルナスとエリー、お前らどこ行ってたんだ! この馬鹿者が! 捕まったらどうする気だ!」
「おい……エリーの抱いてる獣ってまさか……エドワードのペットじゃないか?」
「ほんとうだ、たしかカーバンクルとかいう……」
「おう、見たことあるぞ! エドワードの野郎め。俺達から税金を搾り取り、こんなものを飼って遊んでやがったのか!」
「ちきしょう、そいつを殺せ! カーバンクルを殺せ」
と血の気の多い農民達が叫んでいる。
まあ彼らにとって俺は敵だからな……。
エリーが説得に当たるも、彼らをなだめられそうにない。
「まて。こいつとは面識があるんだ。ダンジョン探索で共に戦った仲だ。いいから武器を降ろせ」
「レオンハルト様、でも……同胞らはエドワードを死ぬほど憎んでいます……となれば、その仲間は例え獣でも生かしておけません……」
「そうだ。エドワードのペットなんて殴り殺せ!」
レオンハルトが制止する。
だが俺はもっと手っ取り早い手段をとった。
俺は額の石から《照明魔法》を発動した。
まばゆい閃光が男たちの目に焼き付く。
それでギャッと悲鳴をあげて悶えはじめる。
太陽を直視したような眩暈と痛みせいで、彼らはしばらく動くことができなかった。
十分ほどして目が治ってきたやつらに、もういちど《照明魔法》を浴びせた。
それで皆がおとなしくなった。
ここからはエリーとレオンハルトの出番だ。農民達を説得してもらいたい。
特にレオンハルトは下級騎士でありながらチャラい性格。
しかし迷信深いという意外な一面もある。
このエマジア島に伝わる伝説の守護聖獣を信じている様だ。
そしてもう一つ。
彼がカーバンクルの俺を、ここまで信頼してる理由がわかった。