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表面は粘土質の層に覆われ、大量の石が混じっている。
これは火山灰が降り積もって出来た地層だ。
やはりか……。
それでザラザラパサパサしているんだ。乾いてひんやりと冷たい。
幸いなことに魔物の気配はない。
すでに穴を掘った魔物は、どこかに行ってしまったのだろう……。
でもこんな固い土中を掘り進めるなんて、よほどの腕力があるよなぁ。
気をつけるべきだ。
これを掘った魔物は、強靭な爪か顎をもっている……。
穴の先は急斜面になっていた。
こんなうねうねした穴の中を、彼らはよく潜って来れたな。
感心する。
女の子のエリーにはちょっと厳しい様で、遅れながら這って来る。
でも筋肉バカのヴェルナスにとっては、これくらい朝飯前のようだ。
ひょいひょいと潜って行く。
俺はうしろのエリーを気にしながら進んでいるが……それでも彼は俺よりも早い。
これじゃどっちが獣か分からんな……。
ようやく穴の外に這い出た。
木漏れ日が差し込む。
これは……どこかの森か?
むせ返るような草の匂いが立ち込めている。
うしろを振り返る。
巨岩がつらなり、まるで断崖のようになっている丘があった。
そびえる断崖のもっと上に、エドワードの屋敷とヴィオニック禁呪図書館が見える。
こんな場所があったとはね。
断崖のなかに、地下迷宮の一部が広がっていたのか?
でもその大部分は、はるか地下深くまで伸びているのだろう。
そしておそらく地の底のドワーフ族の王国につながっている……。
きっとそのなかに、ヴィオニック禁呪図書館の全ての秘密が隠されているのだろう……。
いつかそれを突き止めたい。
さてと。
心地よい風が吹くなか、俺たちは森を散策した。
危険な動物がいるかもしれないから、注意して進む。
もしも熊なんかに襲われたら、この子たちでは勝ち目はない。
もっとも俺の得意の《照明魔法》でなんとかなると思うけど。
ふと視界の隅を、何か黒い影がスゥッと動いた。
ふとい樹木の陰から、人影がこっちを警戒しながら覗いている……。
あれはまさかバケモノか!?
「くぎゅう……んきゅう……!」
気を付けろ。俺は注意をうながすために鳴いた。
「な、なんだ! 誰かいるぞ! エリー気をつけろ……」
ヴェルナスが短剣を構えて周囲を見渡す。
エリーも慌てて弓矢をかまえた。
ばか!
お前らが戦ってもどうにもならん。
視界も足場も悪い森の中では不利だぞ。
ガチャ! ガチャ!
なんだろう?
この物々しい音は……?
人影は鋼鉄の板がこすれるような音を発している。
まさか鋼鉄のように硬い皮膚をもつバケモノか?
巨大な蟹のバケモノか?
それとも硬い鱗に覆われた蜥蜴人間か?
だとしたら……ちょっとヤバイな。
彼らの勝てる相手じゃない。
ここは撤退すべきだ。
「くぎゅう!」
俺は一声鳴いて撤退を命じる。
油断してはならない。敵は複数いるかもしれない。
飛び道具を使ってきたら、それだけでも分が悪い。
奴がどんな武器で攻撃をしてくるか分からないぞ。
じゅうぶんに気をつけながら撤退するんだ。
ガチャリ!
ついに奴が俺たちの前にやって来た!
ガチャガチャと音を立てていたのは……そいつの美しい白銀の鎧だった。
銀製の意匠をこらしたデザインの鎧。全身を覆う鎖帷子の外側から、板金の鎧を装着している。
おまけにフルフェイス型の、銀製の兜をかぶっている。
銀の鎧をまとう高潔な騎士様といった印象だ……。
そいつが俺達の前に立ちはだかる。