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 なぜ神様は俺をカーバンクルに転生されたのだろう?

 悪徳貴族エドワードの処刑される未来を変えてくれと?


 もしそうならば、俺をエドワード本人に転生されてくれたらいい。

 そうすれば最初から領地経営に全力であたれるのになぁ。

 でもそうなならなかった。

 どういうわけか俺はペットのカーバンクルに転生した。


 いろいろと不利な状況からはじまったが、この世界の歴史を覚え、文字を覚え、領主からも信頼を得た。

 そしてここまでのし上がってきた。

 だがここで岐路に立たされている。


 エドワードは農地改革を真剣に取り組んでこなかったので、領内の農業が衰退している。

 マリアと馬車に乗って町を練り歩いたが、そこもひどい状況だった。

 街道はでこぼこだらけ。火山灰のせいで水はけが悪く、湿地帯になっている。

 まともに馬車が走れるわけもなく、他の町との交易も停滞している。

 貧しい農村では奴隷商人が幅を利かせているが、エドワードはそれを咎めない。

 貧乏な農民らは自分の子供を売り、さらに貧しくなっていく。

 これが彼らの反発をまねいている。


 まず第一に領民は貴族の財産であることを自覚してほしい。

 人材の流出が増えれば領地はさらに衰退する。

 だから人材の流出を抑えるべきなんだ。



 たとえば日本では豊臣秀吉がバテレン追放令という法律を発令した。

 1580年代、江戸幕府はキリスト教宣教において制限をもうけるようになった。

 そして宣教師バテレンをはじめ、多くのキリスト教関係者を国外追放することになった。

 これは宣教師バテレンが日本人奴隷らを外国へ売り飛ばしていたのが発覚したからである。

 むろん大名同士でも土地の奪い合い、領民の奪い合いはあっただろう。

 だが国内で人材が流動するのと、国外へ人材が流出するのでは、将来において大きな差がでる。

 多くの技術者が国外に流出してしまえば、それだけで国力が大幅に衰退する。

 それを見抜きバテレン追放令を発令したのは、豊臣秀吉の尋常じゃない慧眼けいがんがあってこそ。


 だが厄介なことにクロスカイン領はその泥沼にはまっている。

 まず領地を活性化させるには、民が飢えないようにすることが必須だ。

 だからこそ最初に実行すべきは農業改革だ。


 火山灰だらけで水はけの悪い大地、栄養にとぼしい大地をどうやって農業向けの肥沃な土地に変えるか?

 これも実は日本の農業の歴史が参考になる。

 日本もこのエマジア島と同じように火山灰が降り積もる大地だったから、戦後の農地改革が重要な節目だった。


 そして領地の畑を見たときに気づいた。

 あれは黄褐色をしていた。一見して黒い土は栄養豊富に思われるが、こういう土は有機物の分解が進んでおらず、作物の栄養源にはなり得ないのだ。


 この土壌改善にもっとも効果があるのは、堆肥などの有機物をまくことだ。

 堆肥というのはすなわち藁や落ち葉、雑草などを積んで腐らせた肥料。

 だがこれだけでは作物の成長に必要な窒素がたりない。石灰を混ぜれば、この問題はクリアできるのだが……。


 そうだ。

 海岸から二枚貝を取って来て、貝殻を竈で焼く。


 反乱に加わっていた冒険者らが鉄製の武器を持っていた。

 鉄製品があるなら、鉄の加工するための鍛冶場があるはず。

 おそらく冒険者らを商売相手にしている鍛冶職人ギルドがどこかにあるのだろう。

 そしてそこにある鉄加工用の竈なら1000度は出せるはずだ。

 貝殻は1000度以上の高温で焼かなければ石灰にはならない。


 石灰を混ぜた堆肥を農場にまけば、土壌改善は成功する。

 作物も多くみのるだろう。

 近くに鉱山があればリン鉱石を掘り出し、リン酸の製造が可能になるのだが……。

 高級肥料であるリン酸を加工できる施設があれば、さらに農業は発展する。


 だがこれで十分だ。

 農民が資金で力をつければ、奴隷商人など悪徳業者が衰退するはず。



「きゅう!」



 うん。

 たしかな段取りができた。

 俺はひそかに喜び、ふさふさの尻尾をフリフリした。


 さてと。

 図書館の地下迷宮ダンジョンだが、《祭壇の間》を抜けた先は真っ暗でがらんとしている。

 味気ない石造りの通路が伸びて、複雑に入り組んだ迷路になっていた。


 意識を集中して照明魔法を放ち、暗い道を照らしてやった。

 エリーに抱っこしてもらい、楽をしているので、それくらいはしてやらないとな……。



「もうすぐだ。この先に俺たちの秘密の抜け穴があるんだ……!」



 と前を歩いていた野生児ヴェルナスが得意げに笑った。

 照明魔法で暗闇を照らす。



 うん。

 なんというか簡単に来られた。

 地下迷宮ダンジョンには無数の隠し通路があって、そのひとつが《外の世界》に通じているんだと思っていた。

 つまりは複雑な隠し通路をとおった末に、図書館ダンジョンは外の別な遺跡につながっていると……。

 きっとヴェルナスとエリーもそこから入って来たんだろうと……。



 しかしそうではなかった。

 1本道の先には、外部からこじ開けられたような大穴があった。


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