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なんて皮肉だ。
俺たちの敵である死骨狼によって、暴徒の一部を追い返すことができた。
だがそれも一時しのぎにすぎない。
すぐにまた彼らは蹶起するだろう。
それなのに、こちらには防衛する手段がない。
エドワードは伯爵の地位にあるが、権力が衰えている。
このままでは反乱者を処罰することもできない。
ならどうするか?
たぶんその答えは俺の中にある。
かつてレオンハルトと俺は、共にダンジョンを冒険した深い仲だったと聞く。
いや正確には、俺が憑依する前の《カーバンクル》であるが。
ということは、深い絆で結ばれている俺なら、レオンハルトも耳を傾けてくれるはず……!
もしレオンハルトが俺を信じてくれるなら、農民の反乱を止められるだろう。
そうすれば、彼らの不満の元凶である農地改革に着手できる。
それが俺のひとつの目標。
それからマリアやミュウルニクスを連れてヴィオニック禁呪図書館の最下層に向かう。
秘宝をもって帰る。場合によってはそれを破壊して欲望の根源を絶たなくてはならない。
それが俺のふたつめの目標。
ごめんエドワード。やはり俺は自分の信じる道を進むよ。
エドワードも俺を引き留めなかった。ただ苦渋の表情を浮かべるだけだった……。
彼の胸のなかに、どんな思惑があるにせよ、いま俺はやるべきことをやるだけだ。
屋敷から外に出て、義勇軍のアジトに向かう。
その手段があるとすれば、ダンジョンで出会った【義勇軍】の子供たち。
たしかヴェルナスにエリーといったか?
彼らに会って、どこから侵入したか聞いてみよう。
図書館の地下迷宮のどこかに《秘密の抜け穴》があるはずなんだ。
屋敷の連絡橋から、郊外の森林地帯を見おろす。
かすかに狼煙のようなものがあがっている。
あれは撤退の知らせか?
それとも攻撃の知らせか?
まずいな。急がないと……!
図書館に戻ってくると、ヴェルナスとエリーは拘束されていた。
となりにはマリアが居て、その顔から焦りと疲れが読み取れる。
マリアは俺の姿を見て、ほっと安堵したようだ。
「フューリーちゃん。このふたりは謀反の罪で極刑になります。外にいる暴徒達も私が全員捕らえて極刑にいたします」
だめだ!
マリアお願いだ。やめてくれ。
そしてこれから述べることを、どうか反対せず聞いてほしい。
それを切実に思いながら、俺は紙とコインを取り出した。
まずそのふたりに約束をさせる。
俺と決闘をしろと。
もしもヴェルナス達が勝ったら、エドワードのところに連れて行ってやる。
「だ、ダメです! そんな約束……私が許しません……!」
マリアが驚いた顔で食い下がる。
だが俺は引き下がらなかった。
そして最後にこう伝えた。
もしも俺が勝ったら《義勇軍》のリーダーの所へ案内しろと。
俺はまっすぐにマリアを見つめた。マリアは観念したように見えた。
きっと彼女も俺の作戦を読み取ったのだろう。
大丈夫だよ。
俺は絶対に勝つから。
農地改革の手助けをするために行く。
農民の不安を解消して、反乱を抑え込むんだ。
その自信に満ちた眼差しが、マリアの決意をうながした。
彼女は力強くうなずいた。