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 激しい応酬に俺は息を荒げた。

 油断したらやられる……!

 奴の鋭い爪が頬をかすめて、俺はおもわず声をあげた。



「きゅう……!」



 落ち着け。

 タイミングをはかり、一気に間合いを詰めた。振り下ろされた尻尾を避ける。

 ガリッと音を立てて地面の石畳をえぐった。

 なんという強烈な一撃だ。

 あんなものを喰らったら、ひとたまりもない。


 大顎の攻撃を疾駆して避けると右の脇腹に回りこんだ。たぎる脚力が一気に加速する。


 《やもり竜(サラマンダー)》は太くて短い前脚で掴みかかっってくる。予想していた攻撃だ。

 俺は地面を転がり足の間を抜けて、顎の下に潜り込んだ。ここは比較的粘液が少なく皮膚が露出している。

 大顎の噛みつき攻撃を乱発しているせいで、地面にこすれて粘液が削ぎ落されたのだ。

 俺は奴の気性の荒さから、そうなることを予想できていた。

 すべて俺の計算通りだ。



「ルウオオオォォォッ……!」


 俺は獅子の様な勇ましい咆哮をあげた……!


 その露出した顎の下を、俺は容赦なく噛みついた。

 通常なら体長80センチほどしかない俺が、3メートルもある巨体の下に潜り込めば、押し潰されて終わりだ。

 この体格差を覆すことはできない。


 だが奴はこれまでに味わったことのない激痛に悶え、ひっくり返って暴れている。

 これまで顎の下を攻撃されたことがないようだ。ゆえにこの一撃は奴にとって致命的となった。

 尻尾の動きが緩やかになる。マリアがすばやく剣を振るい、尻尾を勢い良く裂断した。

 尻尾には粘液がないゆえ、斬り落としやすかった。


 しかしながら《やもり竜(サラマンダー)》は跳ね起きて、自慢の大顎で喰らいに来た。

 ――これも思惑通りだ。


 怒りに震え大きく開けた口が眼の前に迫ってきた。



「ガァ……!」



 俺は短い唸り声をあげると、最大限に開かれた口の中に目掛けて燃える松明を放り投げた。

 喉の奥までぱっくりと開いており、炎は食道を炙り気管に入り込む。


 奇怪な雄たけびを上げ《やもり竜(サラマンダー)》の巨体が仰向けに倒れた。

 その大きな口からゴロゴロという呻き声と、ジュウッと肉を焼く音がする。

 怯んだすきにマリアが一刀両断して腹を掻っ捌いた。それで終わりだった。



「……きゅ?」



 貴重なランタンを失ってしまった。この真っ暗なダンジョンを探索するには分が悪い。

 それに《やもり竜(サラマンダー)》がこれ1匹だけとは限らない。



「まさか本当に《やもり竜(サラマンダー)》に打ち勝つなんて……。やはり貴方は特別な存在……あの伝説の《守護聖獣》様なのかもしれませんね」


 前世の記憶を活かして、こんなにうまく奮闘できたのは嬉しい。どんな奴が相手でも勝てる自信が湧いてきた。


 さてと。

 邪魔者はいなくなった。


 これで安心して周囲の探索ができるな。


 ここは神に祈祷を捧げる祭壇の部屋のようだ。

 俺はもういちど蜘蛛の神アラクネアの祭壇を見た。ずっと思っていたことだが、ここにいる神々が守護神ガーディアンとみて間違いないだろう。見た限りでは守護神ガーディアンは全部で5柱いるようだ。それぞれに特性が現れており、どのような加護を受けられるか一目で分かる。

 確かミュウルニクスがいうには、選ばれたときには兆候のようなものがあるらしい。

 それを《神の声》と呼ぶ。


 だが俺には神の声は聞こえない。まだ守護神ガーディアンに選ばれていないということだ。いずれは選ばれるようになるのか、それともずっと選ばれないままなのか?

 まあ結局のところは個人差なのだから悩んでもしょうがないか。


 そういえばマリアは守護神ガーディアンから加護を貰っている……。

 ならばどうすれば守護神ガーディアンに選ばれるのか知っているのではないか。いや、そんなことよりもなぜ彼女は《死神ヘグファルト》と契約したのだろう。

 他にもたくさん守護神ガーディアンはいたのに……。

 いったいなんのために?

 やはり彼女は何かを隠している。

 俺の知らないところで大きな事件が動いているのか?



「それは秘密です」



 といって彼女は微笑むだけだった。

 まあ今は深く追求するのはやめておこう。でもいずれは謎を解き明かす。

 それに俺もどの守護神ガーディアンと契約するか考えておこう。

 どれを選んでも、それなりに凄い加護を貰えるわけだし。

 いつかマリアの方から教えてくれるとありがたい。

 そうこうしているうちにこの部屋のおおかたの探索が終わった。



 それにしても不思議だ。

 地下迷宮にもぐって最初の部屋が守護神ガーディアンの礼拝堂なんて。

 上は図書館で下は礼拝堂?

 なんともちぐはぐな印象を受ける。

 地下が遥か昔からあったドワーフ族の王国として、上の図書館はいつ建てられたのか?

 なぜ《死神ヘグファルト》の書物が多く収められているのか?

 ここに秘密の一端がかいま見える。

 つまりこの場所は、ドワーフ族が守護神ガーディアンの研究するためにつくったのではないか?


 扉を開けて、次の部屋に入ったときも、やはり似たような空間だった。

 ドワーフ族が築いた知識の倉庫。

 ではやはり守護神ガーディアンの研究をするためか?

 それがドワーフ族が滅んだ理由と、何か大きな関係があるのかもしれない。

 それについては俺も密かに調べてみよう。


 そしてその機会はじゅうぶんに与えられた。

 邪魔なやもり竜(サラマンダー)はもういない。

 この地下迷宮ダンジョンの最深部に何が隠されているのか、これから見に行こう……!


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