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38頁


 最初の祭壇には立派な顎髭を生やし、重厚な鉄の鎧を纏う大男の肖像画が祀ってある。

 炎の様にゆらめく刃のつるぎを高く掲げている。



「これは、この世界の宗教で主神とされる《大力の神ヘイトス》様です」



 マリアが教えてくれた。

 以前にも見たが、なるほどこれが《大力の神》か……。


 その隣には、天秤を持ち、優しく微笑む女神の絵があった。

 天秤から公平さを感じ取れるし、その柔らかく温かい瞳からは、母性の優しさを感じる。

 天秤から法律などの学問を連想する。



「これは《地母神アレイスター》です」



 そして次は、つむじ風を鎧のように纏い、弓矢を構え、千里先を見通すように凝視する青年の絵。

 祭壇に彫られた古い文字を読んでみる。

 そこには《狩人の神エフュロイプス》と記されていた。

 エドワードから古い文字について習っていたので、ひとりで読むことができた。


 その次の絵。

 雷のような形状の鉾を左手に携え、右手には鍛冶師の槌を持った老人が描かれている。

 これは《鍛冶師の神グ=ドース》と呼ばれるものらしい。


 そして大きな鎌を両手に携え、無数の骸骨を従えた死神の絵の前にやってきた。



「そう。そしてこれが……」



 その一瞬だけマリアは目を細めた。

 俺はそれを見逃さなかった。



「そしてこれが不死者を統べる《死神ヘグファルト》です」



 やはりこれが……。

 マリアは《死神ヘグファルト》を《守護神(ガーディアン)》に選んだ。

 やがて始まる農民の反乱を防ぐために。

 よほど大規模な戦いになるらしく、大勢が死ぬと言っていた。


 でも分からない。

 ただの反乱ならエドワードでも鎮圧できるはず。

 だって彼は魔術師だぞ。

 そう簡単にくたばるような奴じゃない。

 もちろん俺だって。


 何かが……引っ掛かる……。

 おそらくマリアは他にも何か重要なことを隠している?



 ……ふと俺はある祭壇の前で立ち止まった。

 地面に膝をつき、針と糸を手にして、フードを深々と被った中性的な顔立ちの神。

 だから男か女か判断しにくい。顔は伏せ、その瞳はなんだか物悲しそうだった。

 そして、そのローブの胸の部分には、蜘蛛の紋章が描かれている……。


 祭壇には詩編のようなものが彫られている。

 エドワードの書斎で見た文字だ。古代神形ルーン文字と呼ばれるもの。

 あの時は読めなかったが、いまなら読める。


 この神を見ていると胸がざわめく。

 前世で倒れた時の記憶が蘇る。

 最期に見た光の糸。

 自分の体に光の糸が絡まり、俺は糸で引かれるようにこの世界に導かれて──。


 なにか……なにか大切なものを忘れている。

 俺をこの世界に導いた神のことを……。


 そうだ。


 俺はこの世界に来る前、この神様とたくさん話をしたような……。

 それで何か大事な約束をしたはずなんだ。

 なのに思い出せない。


 鬱憤したまま俺はその詩編を眺めた。



 四は世界を監視する者の数。

 四本の糸から紡がれる絨毯は帝国の礎を築き、新たな文明を産む。


 三は革命を成す者の数。

 三本の糸から紡がれる敷布は過去を覆し、新たな秩序を産む。


 二は経営する者の数。

 二本の糸から紡がれる刺繍は思考閃き、新たな財産を産む。


 一は聖なる者の数。

 一本の糸から紡がれるのは戒め、されどそこから無数の運命を織り成す。



 ~蜘蛛の神アラクネアの祭壇に祀られている詩編~




 食い入るように見ていると、隣でマリアが話しかけてきた。




「なんでも蜘蛛の神アラクネアには特殊な力があるといわれています。異次元にある魂を、この世界に導くことができると……」



 ああ。

 知っているよ。


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