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それで俺は最期どうなるんだ?
しつこく聞いてみたが、マリアは首を横に振るばかりだった。
「それは言えません……でも忘れてください」
それっきりマリアは何も教えてくれなかった。
だから、俺もなにもいわなかった。
農民の反乱で俺は死ぬらしいが、実感がわかないのだ。
沈黙したまま、俺たちは細く長い階段を降りていった。
しかたない。
意識を切り替えよう。
この先は地下迷宮だ。
危険な魔物がいっぱい潜んでおり油断できない。
この長い階段は《安全な領域》と《危険な領域》の境い目だ。
なかにいる魔物を外に出さないためか、あるいは……。
俺たちは慎重に降りていった。
はじめてここを降りたとき、まるで肌がひりつくように感じた。
心臓をきゅっと掴まれたように……。
最初のときは、俺だけでこの地下迷宮に潜ったんだよな。
あのときの興奮が今でも蘇ってくる。
しかし今回は事情が違う。
マリアも一緒だ。
今回はマリアと共に危険な魔物を払いのけ、もっと下層を目指すんだ。
こんどこそは、地下迷宮に隠された秘密を解き明かす。
そうすればエドワードが取り憑かれている研究にも、終止符を打つことができる。
やがて鉄の扉が見えた。
ここから先は出入がを制限されている危険な迷宮だ。
図書館でありながら、地下に広大な迷宮が広がっている。
壊れた本棚の中には、歴史的に古い書物もたくさんあり、好奇心をくすぐられる。
「この図書館は、かつて地下に王国を築いていたドワーフ達が建設したものです」
マリアが静かに話す。
ていうかさらりと貴重な情報を教えてくれた。
この図書館は人間が作った物じゃない……?
ドワーフ族か。
確か背が低く小太りで地底に棲む亜人。鉱石の発掘に長ける。そして独自の洗練された鍛冶技術を持っている。
俺の知識ではそんな感じだ。
マリアがいうには、この島の地下にはドワーフ族の王国が広がっていたという。
ドワーフ族は金属の知識や冶金学に優れ、鉄鉱石の取れそうな鉱山内部に岩窟街を築いて、暮らしていたのだと。
現在では貴重なミスリル鉱石が掘りつくされ、ドワーフ族はどこかに去った。
そして廃墟となり荒れ果てた王国が、広大な迷宮となり、図書館の地下に広がっている。
今では魔獣族や不死族など、光を嫌う怪物達が棲みつき、危険なダンジョンになっている。
なるほど。
だから図書館の地下に、こんな迷宮が広がっていた……。
そんな危険な場所を、俺はひとりで淡々と攻略していたのか。
俺は見えない糸に引かれるように地下迷宮に足を踏み入れた。
天井は崩れ落ち、石畳の床がまっすぐに伸びている。
左右には石柱があり、柱と柱の隙間には祭壇のようなものがある。
ここは《守護神》を崇拝するための画廊。
それで主の消えた王国には、何が隠されているのか?