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「フューリーちゃん……ここに居ますか……?」



 図書館の屋上から、少女の細い声がする。

 この声はまさか……!

 メイド服の少女が、螺旋階段を駆け降りてきた。



「きゅい……きゅい……きゅう……」



 マリアだ。

 俺はその手にスリスリした。背中を撫でてくれた。

 マリアは何か大きな包みを持っている……。


 マリアが戻ってきたということは、つまりマクベインを捕まえられた?



「そうですね。連絡が取れましたよ。国王陛下に献上される前に、カーバンクルたちを取り戻せそうです。でも口の達者な男で……元値の2倍の金を要求されました」



 カーバンクルは希少な動物だから、それなりに値が張るだろう。

 2倍か……。

 どのくらいの金額か知らないが財政に響くなぁ。


 それにして……。

 俺は尻尾が総毛立った。


 図書館の魔女ミュウルニクスは、もうじき強力な助っ人が来るといっていた。

 だから地下迷宮に潜るのは、もう少し待てと。

 まさかその強力な助っ人というのは、マリアのことか?


 たしかに彼女は剣術に優れているようだが。

 でも彼女はクロスカイン邸で働いているメイドだぞ。

 メイドなのに戦えるっておかしい……。

 実際に見たことないから分からないが、どのくらい強いんだろう……。


 それをミュウルニクスに聞こうとしたが遅かった。

 あの魔族は何処へと消えてしまっていた。

 やれやれ。都合が悪くなると逃げるのか。



「それじゃ、向かいましょう」



 するとマリアは肩に背負っていた大きな包みを降ろした。

 包みを広げると、そこには刃渡り120センチほどの鋭い剣があらわれた。


 RPGとかでいう《ロングソード》というやつだ。

 刃こぼれも染みもない。鈍色の美しい輝きを放っている。

 これは……かなり手入れされているぞ。素人の目からみても分かる。

 ゲームの中では重厚感なんて無かったけど、実際に目にすると、《ロングソード》てかなり重厚感があるよなぁ……。


 ……たしか俺が大学生のころだったか……。

 何度かホームセンターに行ったことがある。

 そこでは建築現場の補強用として、鉄パイプがたくさん売られていた。

 これと同じ大きさだが、3キログラムはあったと思う。もっと大きいものなら、5キログラムをゆうに越えるだろう。

 大学生の俺でも、3キログラムの鉄パイプを重いなぁと感じたほどだ。


 それなのに、もっと華奢な身体のマリアが、あれを振り回して戦うというのか?

 いくらんでも無茶じゃないか?


 しかしマリアは意に介さず。

 鞘に入った剣をベルトで固定して腰に吊り下げる。



「くぎゅう……」



 やはりマリアはただのメイドではない。

 過去に戦闘の経験とかあるのだろうか?


 そういえばミュウルニクスがかつて奇妙なことを言っていたな。

 守護神ガーディアン加護ギフトの話を。

 この世界は始めて御創りになった創造神様は万物の精霊を生んだ。彼らの言葉をつかって命令して世界を管理した。


 だが創造神の不注意から魔族や不死者など多くの穢れた存在が生まれた。

 それを払う為に、創造神様はあらたに守護神ガーディアンを生んだ。

 守護神ガーディアンに選ばれた者は加護ギフトを与えられ、魔族を狩る宿命を負わされる。


 そして。

 マリアは守護神ガーディアンに選ばれ、加護ギフトを授かっている。

 剣の扱いに長けているということは、やはりマリアはメイドになる前は騎士だったのか?


 それは想像の域に過ぎないが、おそらくそんなに外れてはいないだろう。

 そんなマリアがなぜエドワードの屋敷で働いている……。



「驚いていますね……。私は守護神ガーディアンの1柱《死神ヘグファルト》様から《加護(ギフト)》を授かっています。それは死んでも終わらない力……」



 なるほど。

 マリアは《死神ヘグファルト》を守護神ガーディアンに選んでいたのか。

 となると、《死神ヘグファルト》の《加護(ギフト)》とはどんなものだろう?

 ちょっと気になるので、例の紙とコインでたずねてみた。



「死んでも終わらない力……《死に戻り》スキルです……」



 俺はぞくっとした。

 《死に戻り》スキルだって?

 死んでも、時間が巻き戻って、生き返るスキルのことか?

 だとしたらマリアは最強じゃないか?

 さすが死神の加護(ギフト)は半端ないなぁ……。

 俺も守護神ガーディアンを選ぶなら、ヘグファルトにしようかなぁ……。

 だってどんな敵でも、死んでやり直せば、いつか絶対に勝てるじゃん。

 俺は興奮して跳ね回っていたが、マリアはどこか浮かない顔をしている。



「私が《死神ヘグファルト》様を、守護神として選んだのは、ふたつの理由があります。……そのひとつは、やがて始まる大規模な農民の反乱を、未然に防ぐためです……。その戦いでは、大勢の命が失われます。領主様も、そしてフューリーちゃんも……その戦いで命を落とします……」



 俺は声がでなかった。

 ただ静かに聞くだけで精一杯だ……。


 マリアは《死に戻り》スキルをもつ能力者で、この瞬間をなんども繰り返してきた……。

 近いうちに起こる農民の反乱を防ぐために……なんども、なんども……一人でやり直して、孤独に戦ってきた。

 そして……その戦いによって……俺とエドワードは死ぬ……?


 だって彼女が嘘をつくわけない。

 だとすると、もうじき凄惨で大規模な《農民の反乱》が起こるのか……?


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