表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/71

35頁


 静寂につつまれた書物の墓所。

 二度と読者がおとずれない薄暗い図書館。

 窓から洩れる光の中に、俺とミュウルニクスは立っていた。

 かたわらには、巨大な鉄の輪が転がっている。

 魔法がとけたので、もう動くことはない。

 毎回このように変な魔物を召喚されてはかなわない。

 もうほんとうにやめてほしい。



「私は魔族だ。生命を奪うのが仕事だもんね」



 なんて言っているが、ほんとうは再会できて嬉しいんだろう。

 だったら素直にそう言いなさい!

 しかしこうやってミュウルニクスに会えたことは、俺にとってもありがたい。

 ……狼魔貴族の末裔、漆黒夜ミッドナイトの魔女とうたわれるミュウルニクスに、ちょっと知恵を借りたい。

 《義勇軍》のリーダーと接触する方法だ。


 俺はふと考えた。

 彼と会って、それからどうするべきか。


 まず農地改革はクロスカイン領復興の第一段階だ。


 その後は街道の整備に着手する。

 街道が舗装されてなければ、馬車が行き来できない。

 それでは交易が先細る。

 交易が発展しなければ、商業も工業も発展しない。

 まずは肥料の開発と土壌改善。それに魔物を討伐して、街道の舗装と治安確保。

 クロスカイン領の課題は多い。


 最終的には領主であるエドワード・クロスカインを説得しなければ……。


 そこでもミュウルニクスの力が必要になる。

 俺だけでなく、彼女も一緒ならエドワードを説得しやすくなる。

 なぜなら彼女は狼魔貴族だし、この領地の中で唯一エドワードと対等に話ができる人物だ。



「だめだ。それはできない」



 なんで? どうして?



「私はこの図書館に縛られているので、ここから出ることはできない。だからエドワードも私のことを恐れていないのだ」



 ミュウルニクスはその理由を淡々と話した。

 それなら俺の翻訳係になってくれ。またはエドワードと対話するだけでもいい。

 しかしミュウルニクスは首を横に振るばかり。



「おそらく彼は私の意見に耳を傾けないだろう。それどころか誰の意見にもね」



 あの頑固者め。

 俺がどんなに知識を持っていたとしても、とくに領地経営に関しては、エドワードは誰も意見も聞かないという……。

 ならばどうする?

 ミュウルニクスが直接領民へ指示すれば?

 しかしまたしてもミュウルニクスは首を横に振った。



「それも無理ね。だって領民が魔族である私の話など聞くかしら……」



 なんで?

 このままだと農民は飢えと病で、さらに犠牲者が出るぞ。

 それなのに何の対策もしないと?

 それでいいのか?



「不毛になるか豊穣になるか、それこそ神の御意思。農民らはそう思っているわ」



 良くも悪くも神頼みか。

 今より農業は発展しないと諦めているんだ。

 農地改革が成功するとは思っていないわけだ。

 でもだからこそ、農業改革が成功すれば、彼らのなかに希望が生まれる。


 でもエドワードは頑固だからなぁ。農地改革に協力するとはおもえない……。

 商業と工業の発展には、まだまだ遠いなぁ。


 ミュウルニクスはもう考える気もないようだ。

 お手上げとばかりに、椅子に座り込んでしまった

 誰ならエドワードを、あるいは農民たちを動かせる?


 やはりレオンハルトしかいない?


 かつてクラウス王に忠誠を誓った下級騎士レオンハルト。

 そういえば農村の長老が言っていた。

 彼は領民に慕われ、人望が厚いと……。


 結局は彼の力が必要になるのか。

 それにマリアが言っていたが、たしか彼は……。


 父の死後、財産を国王に没収されてしまい、さらに免罪で死刑宣告されてしまった。しかし彼は逃亡して未だに行方知れず。今では義勇軍のリーダーになっているらしいが。


 賊のリーダー。

 賊というと血を好む連中ばかりに思われるが。


 しかしだ。

 彼は俺と一緒にダンジョンを探索して来た。

 いや、正確には俺が転生する前の、このカーバンクルと……。


 つまりこれは運命のめぐり合わせというべきだ

 俺を転生させた《蜘蛛の神様》は運命をもてあそぶ邪神だと聞いた。

 まさに、もてあそばれた運命の皮肉というやつだ。

 でも果たして、どこに行けば彼に出会えるのだろうか?



「まあ、会うだけなら簡単だと思うわ」



 今まで黙っていたミュウルニクスが唐突に話しかけてきた。



「わざと賊に捕まったら? そうすればレオンハルトに会えるかもしれない。でも下手すると殺されるかも……」



 そういってクスクスと笑う。

 たぶん冗談のつもりで言ったのだろう。

 でもそれって案外良いアイデアじゃないか。

 聖獣カーバンクルなら、たとえ捕まっても殺されず、密猟者に売り飛ばそうとするだろう。

 売られる前にルトと接触すればよい。


 しかし俺はこの屋敷から出られないし。

 外には死骨狼アンデッドウルフの群れが徘徊している。



「おまえがダンジョンに潜って鍛錬レベルアップすれば、いづれ死骨狼アンデッドウルフさえも楽に倒せるようになるだろう。そうすれば思う存分、外に出られる」



 なんて悠長な……!

 でもそれが一番の近道なのかも。

 俺は観念して、トボトボと地下迷宮ダンジョンに向かう。

 だがそのときミュウルニクスに止められた。



「もう少し待っていれば、強い助っ人がやってくるぞ。その者と一緒にダンジョン探索すれば良い」


「んきゅ?」



 強い助っ人がもうすぐ現れるだって?

 でもこの屋敷にはエドワードとマリアしかいないし……。

 あ、そういえばマリアは剣術に優れているんだ。

 彼女と一緒なら、ダンジョンの最深部まで潜れそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ