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「ケイン王国の若き王です。先代セレス様が亡くなって以後、兄のクラウス王が統治していました。
ですが野心にあふれ、竜心王と謳われるクラウス王は、大陸へ遠征戦争に行ってしまい、それから連絡が途絶えました。
噂では戦争で死んだと……。
今は弟のカアル王が島の実権を握ってますが……。
誰よりも横暴で、それゆえに《血濡れ王》と呼ばれ、地方の貴族たちに更なる税を課しています」
つまりお上からの《取り立て》が厳しくなり、それにともなって領民の課税が増えたと?
それにしてもやり方がまずい。
このままでは領地が更に荒廃してしまう。民は領主の財産だ。それが逃げ出してしまってはどうしようもない。
「まだ領主様は幸いでした。カアル王に好かれているので……。それは……領民の子供らを労働者として売ったからです……」
なんだって?
だとしたら本当に酷い話だ。エドワードは何を考えているんだ?
暴君王と一緒に領民を苦しませている悪徳伯爵とか……。
まさに日本でよく見た勧善懲悪モノの悪代官だなぁ……エドワードの奴はぁ……。
それで領民は反乱を起こさなかったのか?
「カアル王に気に入られるためとはいえ、人狩りをしたのは明らかな失敗だったと私もおもっています……」
だから街が活気を失っているのか。
「港町に住んでいた者のなかには、《義勇軍》に寝返る者も多くいました」
マリアがいうには《義勇軍》とは、森の中に隠れている義賊が結成した地下反抗組織のことらしい。
彼らは各地で貧しい農民達を煽り仲間を増やしては、貿易商の物資を略奪したり、カアル王やエドワードの重要な拠点を襲ったりしてるそうだ……。
これはよくない。
この世界の法律とかは知らないが、俺が思うに義勇軍に協力した奴は家族もろとも死罪ではないか?
エドワードはともかくカアル王ならやりかねんぞ。
その話を聞いたら、さすがに俺も気分が悪い。
どうにかならないかなぁ。
だが少しずつクロスカイン領の真実が浮き彫りになった。
もしかしたらエドワードの屋敷で働いていた使用人達は、義勇軍の度重なる襲撃に遭い、身の危険を感じて逃げ出したのではないか。
だからあの広い屋敷にはエドワードとマリアしか居なかったのだ。
あのヴィオニック禁呪図書館が無人なのも、それでうなずける。
クロスカイン領は没落寸前というわけだ。
でもいったい誰が《義勇軍》を指揮している?
「その答えはいずれ分かります……」
マリアはそれしか言わなかった。
なぜか言葉を濁している。何か話したくない理由でもあるのか?
まあペットの俺が心配することではないが、このままで本当に大丈夫か?
この現状をどうにかしないと……。
エドワードにも罪はあるが、諸悪の根源は《血塗れ王カアル》だ。
いくらなんでも無茶苦茶な奴だぞ。
どんな人物か会ってみたいが、辺境貴族のペットでしかない俺には無理だろうなぁ……。