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 不思議なものでクロスカイン邸には、マリア以外の従者がいない。

 したがって馬車に乗るときは、マリアが御者台に乗って手綱を引く。

 荷台に吊り下げられているお香から、紫色の煙がたなびいている。

 どうやらこれは獣除けらしい。

 それにアンデッドをよせつけない効果もあるようだ。


 こんな凄いアイテムがあるなんて……!

 アンデッドを恐れる必要など無かったんだ。

 でも高価なものだし、持続時間も少ないだろう。

 ここぞという時にしか使えないのかも……。


 さて。

 荷台にはエドワードが乗っている。

 分厚い帆があり、荷台の中の方が安全だし、煙や埃をあびることもない。


 だが俺はマリアと一緒に御者台に乗り、外を眺めることにした。



「んきゅう」



 おもったよりも風が強いな。

 海に近いからだろう。


 そして廃墟になりかけている街は、とても美しかった。

 午後の陽光が海の波を照らして、きらきら輝いている。


 海ってあんなに綺麗だったのか。

 前世では海で遊んだ記憶がない。それこそテレビで見たくらいだ。

 でも海ってこんなにワクワクするものなんだな。

 この潮の香りがたまらない。

 こんなにも好奇心をくすぐる匂いなのに、前世では海で遊んだ記憶がない。

 それってなんだか悲しいことだ。


 俺は耳を立てて波の音を聞いた。

 とても心地よくて体がリラックスする。


 いつかマリアと一緒に海で遊んでみたいなぁ。

 そんな他愛ないことを考えていたら、唐突にマリアが話しかけてきた。



「なぜ街から人がいなくなったとおもいますか?」



 えっ?


 ずっと疑問に思っていた事を逆に聞かれた。

 はじめて図書館の屋上から街を眺めたときから、それを疑問におもっていたけど。

 そう。あれからずっと頭に引っかかっていた。


 こんなにも栄えている港町。

 海岸には岩を積んだ防波堤があり、波で船が転覆するのを防いでくれる。

 頑丈な桟橋が並び、荷箱コンテナを降ろす広いスペースもある。

 滑車を利用したクレーンがあり、この港町がいかに先進的で優れているか分かる。


 停泊する船のなかには、立派な三角帆をもつマスト船が何隻かある。

 それらの船には、しっかりとした竜骨キールまで備わっている。

 どうやら 14 世紀ごろの中世ヨーロッパと同じ造船技術があるようだ。


 造船法は当時のヨーロッパにおいては最先端技術であり、大航海時代の先駆けであった。

 つまり頑丈な船がつくれるということは、経済的・軍事的にも強固な国であるということだ。

 他の島や大陸との貿易網も確率されているはず。


 こんな立派な港があるということは、クロスカイン領は島の防衛を任されている重要な拠点のひとつだろう。


 さて本題に戻ろう。

 それでは何故に港町に人がいないのか。


 考えられるのは貿易の独占か。輸入品に高い関税をかけて、自国産の品を優遇していたから?

 船にも高い所有税をかけていたから、船員や作業員が逃げ出したとか?

 もしかしたら、港町ゆえに疫病が流行ったのかもしれない。



「そうですね。重税を掛けていたのは事実です。でもそれはカアル王のご意志……」



 カアル王?

 だれ?

 王ということは、この島の実権を握る人物か?

 エドワードが島の西海岸を取り仕切る中流貴族だということは知っていた。

 おそらく他にも貴族がいるのだろう。

 そして彼らの頂点に立ち、この島を支配してる者がいる。


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