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 この世界は魔法による格差社会だ。

 ほんとうはもっと大勢の人間に魔法の知識を開放するべきなんだが。

 そうすれば、より多くの魔術師が生まれ、互いに切磋琢磨して、さらに魔法学は発展するだろう。

 いまよりもっと住みやすい世界になるとおもう。

 この荒れ果てたクロスカイン領を発展させるためにも必要だ。



「長々と説明してしまったが、獣のお前でも理解できたか? まあ難しくて無理かもしれんが。要するに魔法という者は神々が発明したルーン文字を使い、精霊や悪魔を操る技だ。火なら火、水なら水のルーン文字を描けば、精霊たちが力を行使する。そして魔法を打ち消したいなら、浮かび上がったルーン文字に斜線をくわえて形を変える。そうすれば文字が効力を失う。それが魔法というものだ。この時代まで残る神々の奇跡の技だ」



 神々の奇跡。

 地球では遥か遠い昔に失われた神秘が、この世界では今も生き続けている。

 ……なんというか、例えばRPGロールプレイングゲームのようにMPを消費して気軽に撃てる技ではない。

 術者本人にも相応の危険が付きまとうし、慎重に使うべきものだ。

 古代の獣人やエルフたちは、その恐るべきルーン文字を神々から継承され、それによって未曽有みぞう繁栄はんえいをとげた。

 このルーン文字こそが文明発展の鍵であった。



「――そこで賢いお前にもうひとつ質問だ。ルーン文字が神からの贈り物として、それのもつ弊害とは何だ? これは学者の間で議論されていた非常に難解な問題だ。文字の概念という高度な知識が必要になるが、おまえに分かるか?」



 ……ルーン文字の弊害か?


 文字とは経験と知識を他者に伝えるツールだ。文明の発展に必要な基礎だ。

 だがルーン文字を描くと、このように超自然的な力を引き起こしてしまう。

 これではおちおち日記も書けやしない。ルーン文字で書いたら日記帳がバラバラに吹き飛んで、燃えて灰になるだろう。

 これでは不便極まりない。日常生活にも大きな支障が出る。

 つまりそのままではルーン文字は危険であること。


 だとすれば?


 そうだ。

 文字をばらけて簡略化させれば……!

 例えば日本語だ。平仮名やカタカナは漢字をくだいてつくられたという。

 メモのたびに難しい漢字を書いていたら面倒だ。だから平仮名やカタカナがつくられた。

 文字がすばやく書けること、それでいて他者に間違いなく伝わること、これは文字の発展に重要だ。

 洗練された文字は文明を発展させるのだ。


 ルーン文字も斜線を引くだけで効果が消える?

 ならば文字そのものを簡略化させればよい。



 つまりルーン文字をある程度の形が分かるように崩す。そうして新しい文字をつくる。

 さながら平仮名やアルファベットの筆記体のように。

 そうしてつくられたのが、現代エマジア島の標準語だ。


 クロスカイン邸の雑貨用品に書いてある文字がアルファベットのように単純であって、禁呪図書館に書いてある文字が難解に見えたのはそのためだ。


 ヴィオニック禁呪図書館に並べられている書物は歴史的に古いのが多い。ルーン文字の原型に近い、古い文字で書かれているから複雑なんだ。


 頭の中ではいろんな考察ができだが、それを羊皮紙とコインで表現するには難しい。

 それでも頑張ってみたら……。



「……た、たしかにそのとおりだが……それを……ほんとうにおまえが、ひとりで考えたのか?」



 エドワードがまた驚いている。

 目を大きくあけて、金魚のように口をパクパクさせている。



「やばい、ここここ、こ、こいつ私が思っていた以上に天才だ……!」


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