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死神の呪い……いったい何の話だ?
それも気になるが……。
いまは魔法についてのおさらいだ。
魔法とは世界を構築する概念そのものだ。
元素を司る神々、万物に宿る精霊たち、死の向こう側にいる魔族、悪魔――彼らの《言葉》を用いてその力を行使する。
これこそが魔法の原理。
「ほう。物分かりが良いな。つまり魔法とは、万物を司る者たちに《言葉》と《文字》で呼びかけ、力を乞う儀式のことだ」
《文字》とは神がつくった古代文字のことか。
魔法を喚起する神聖文字。
あるいは簡略化された魔法陣のようなものだろう……。
「そのうちの《文字》というものは、かつてエマジア島に住んでいた獣人やエルフたちが、使っていた文字だ」
エマジア古代語か。
精霊の力をあやつることができる文字。
今はなき古代の獣人やエルフたちは、そうした神秘の力を神から受け継いでいた。
だから精霊や悪魔たちの《言葉》を操ることができる。
「彼らは魔法を呼び出す《文字》をルーン文字と呼んでいた。そうだな、例えばそこにコップがあるだろう。よく見ていろ」
エドワードはコップに向かって指を突きだす。
すうっと指を宙に躍らせた。爪の先に青い燐光がやどる。動いた指の跡に沿って青光が残り、空中に奇妙な印が浮かび上がる。
それは丸と十字を足したような象形文字だった。
「くぎゅっ!」
その象形文字を中心にして、青い炎がぼうっと現れた!
衝撃でコップの水が噴水のように吹き出した。
それから炎が爆ぜてコップが飛散した。
「これで分かったな?」
エドワードは浮かび上がる象形文字に対して、二本の指でシュッと斜線をひいた。
燐光が象形文字に新たな線をくわえると、一瞬だけつよく光った。
炎がうち消され、象形文字がしぼんで消滅する。
なんとも不思議な光景で、俺は食い入るように見つめていた。
すごい。
いざ目の前で魔法を見ると、なんというかほんとうにすごい。
まあカーバンクルと呼ばれる聖獣がいたり、図書館の地下に巨大なダンジョンがあったり、そこに魔物がいたり、いまさら魔法のひとつやふたつで驚くことはないが。
それでも面白いものをみた。
「《西の湖の霜竜学院》で学んだ魔術師たちは、このようにルーン文字を操って魔法を具現化できる……といっても使えるルーン文字の効果には個人差があるし、体内にどれだけ魔素を取り込んでいるかでも変わってくる。これは親の遺伝だから、使える奴と使えない奴がいるわけでどうしようもないな」
ルーン文字とは神々の《言葉》を文字で表したもの。
人間は神々の《言葉》を発音できないから、かわりにルーン文字を描いて魔法を発動する。
神々の《言葉》が使えるのは精霊や魔族だけだ。
だから、獣人であり魔族でもあるミュウルニクスは《言葉》を詠唱することができたんだ。
しかしどうやら誰でも魔術師になれるわけではない。
素質がなければルーン文字を操ることもできない。
つまり魔法をつかうには血統が大事なんだ。
おそらく魔法が使えるのは、その魔素の純粋な血を護り受け継いできた家系。
貴族や王族などである。
それに体内に魔素があっても、教養がないと魔法はつかえない。
専門学校で魔法の知識を学び、厳しい訓練を受けた者だけが魔術師になれる。
となれば、財政に余裕のある者しか魔術師にはなれない。
魔法を使える者と使えない者、そこに格差が生まれる。
富める者は富み、貧する者はさらに貧する。
悲しいけど、これが現実だ。
ではどうすればいいのか?