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「では神々の中で最も偉大な存在とは?」
またも質問された。
神々の中で最も偉大な存在?
つまり他の神よりも力がある奴は誰かとうことか?
ううん。分からないな。神様なんてみんな同じくらい強いんじゃないか。
エドワードは腕組みして、答えを待っている。
最も偉大な存在か……神をつくった神というべきか?
だとしたらこの世界を創造した神様だな。
「そのとおりだ! 最も強い神といえば《この世界の創造神》だという答えに辿り着く。よく答えた。やはりおまえは世界一賢いカーバンクルだな」
「くぎゅう」
適当に答えたら当たってしまったか。
しかし創造神の力とはどんなものだろう?
「他の神々はたったひとりの創造神から生み出された子供たち。彼らの力とは、それは人間や魔族や精霊よりも強力ではある。神とは万物の象徴であり元素だ。ゆえにその力は純粋で他のどの種族よりも強大だ」
この世界の魔法というのは面白い。
神々とは世界の管理者でありながら、万物の元素を司る存在のようだ。
火、水、土、風、金属、植物、このような基本的な存在を神々が支えている。
精霊や悪魔が操る小さな火の玉じゃない。神の炎なら一つの山を焼き尽くす。
神の手なら海を分断し、船団をまるごと押し流すこともできる。
神の吐息なら、風を操り自在に飛ぶこともできる。
これが神の《言葉》であり、それを覚えた者だけが操れる上位の魔法なんだ。
「よいか? この世界ははじめ闇と混沌の炎しか存在しなかった。創造神がはじめて言葉を造られ、その言葉によって混沌の炎に呼びかけられた。すると炎は鎮まり、創造神の言い成りとなった。次いで闇に呼びかけ、これもまた創造神に服従した。虚無の海に膨大な魔素が溢れる世界で、創造神は魔素を固め、初めに島をつくられた。それがこのエマジア島。そして大陸を次々とつくられたのだ」
実に興味深い神話だ。
日本でもイザナギとイザナミが鉾を海に突き立て日本列島をつくったという。
最初に島をつくったという点で、この異世界と日本は共通している。
他にも旧約聖書では創造神が『光あれ』というと世界が光で満たされたという。
この世界が《言葉》によって創造されたという点においてとても類似ている。
「そして世界の主は言葉により《混沌の炎》を太陽の光と月の光に作り変えた。闇は夜に作り変えた。こうして昼と夜、その区分けとして言葉で時を刻んだ。それが時間の始まりだ。太陽と月のめぐりは大地に風を呼び、火を起こし、植物の芽を芽吹かせた。
それを制御するために精霊をつくられ、精霊から人間や動物が生まれた。
やがて最初の命が尽き果てると死という概念が生まれた。その概念は全ての魔族、悪魔、悪神を産み落とすきっかけとなったのだが……」
そこでエドワードは一息ついて言葉を区切った。
「これで理解できたろう。創造神の力にどれほどの価値があるか……きっと死神の呪いにも打ち勝つことができる。あれを救う為にも、私にはそれが必要なんだ……」
えっ?
最後にいった言葉はどういう意味だ?
ますます分からなくなった。
エドワードはこの図書館で《服従魔法》の研究をしていると思っていたが……。
《創造神の力》の研究?
死神の呪い、誰を救うって……いったい何の話だ?
もしかして、俺の知らないところで何かとんでもない事が起こっているのか……?