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「さて、文字についてはこんなものか……」
「くぎゅう」
あれから小一時間ほど。
エドワードと意志疎通をはかり、さまざまな文字を学んだ。
獣とはいえ、子供というものは知識を貪欲に吸収していくもんだ。改めて自分の学習能力に驚かされる。
むしろ前世で人間だった頃に比べると、格段に記憶力が上がっている。
カーバンクルの特性かもしれないが、俺の知的探求心も拍車をかけているのだろう。
それで文字についてだが、やはり思っていたとおりだ。この世界の文字はアルファベットに近い。
だから日本語の平仮名のように一つの文字が一つの音節を表す文字、すなわち音節文字とは異なっている。
この世界の文字は、一つの文字が一つの音素を表す文字、すなわち音素文字だ。
地球で言えばそれは英語やギリシャ語にあたる。
だからこんな小さな羊皮紙に全ての文字を書き込むことができたのだ。
これが例えば平仮名だとアルファベットよりも文字の数が多くなる。
文字数が増えると、紙とコインだけで意思疎通するにはちょっと面倒になる。
だがこの世界の文字がアルファベットに近いことは俺にとって有利に働いた。
エドワードと意志疎通して、大きな収穫を得た。
そしてもうひとつ。どうしても聞きたいことがあった。
それがこの世界に存在する魔法と呼ばれるものだ。
魔法の知識をもっと吸収したい。
「さてこの島のことだが、魔法があるのはもう知っているな? 私達の使う魔法とはすなわち精霊や悪魔の力を行使するもの。精霊の《言葉》、悪魔の《言葉》、妖精の《言葉》、すなわち魔法の呪文とは、彼らの《言葉》を媒体にして直接呼びかけることなんだ」
これはエドワードが研究して解明したものらしい。
詠唱呪文とは精霊や悪魔たちの作った言葉であり、それを唱えることにより彼らの力を行使する。
それがこの世界の魔法の原理らしい。
これは漆黒夜の魔女ミュウルニクスから聞いた話と一致する。
なんとも興味深い。
「そこでおまえに質問だ。精霊や悪魔よりも更に高位の存在とは何だ?」
エドワードが質問してきた。
精霊や悪魔よりも高位の者?
この世界にどんな種族が存在するか分からない。
だがこれほど多種多様な種族が棲む世界。それだけ神秘の眠る場所だ。
もしかしたら、この世界のどこかには精霊や悪魔よりも強い種族がいるかも知れない。
だが、ここはもっと単純に考えよう。
精霊や悪魔よりも更に上の存在となると……。
それはすなわち神ではないか。
ここまでエドワードから学んだ文字を使って答えてみる。
「まあ単純明快な答えだな。しかし間違いではない。その通りだよ。精霊や悪魔よりも高位の存在とはすなわち神だ。では神々の言葉を使えば、さらに強力な魔法を操ることができる。賢いお前ならこの原理を理解できるな?」
なるほど。
精霊や悪魔の作った言葉で彼らに呼びかけ力を借りるのが魔法の基礎。
ならば神々の作った言葉で彼らの力を借りられるなら、より強力な魔法を操れると。
つまり《守護神》たちの《加護》が、反則技すぎるのも当然ということだな。