20頁
人間と獣が意志疎通できるアイテム。
なんて素晴らしい!
精霊や神々の力に匹敵する偉大な道具だ。
まるで神器じゃないか。
そんな魔法道具を序盤から手に入れるなんて……俺はなんてツイてるんだ!
ミュウルニクスはハンカチで手を拭いた後に、懐から何かを取り出した。
俺は鼻水を垂らしながら、期待して見守っていた。
なにやら1枚の羊皮紙を取り出す。
それと1本の筆を取り出した。
筆はともかく羊皮紙ときたか……。
羊皮紙は動物の皮を加工して、筆写の材料としたものである。
やはりこの世界は中世ヨーロッパに似ていて、《紙》というものが非常に高価なのか?
だとしたらこの図書館はどれだけの値打ちがあるのだろう。
その知識もさることながら、こんなに大量に《紙》があるのだから、その値打ちは天文学的数値だろう。
おもわず余計なことを考えてしまう。
「すまぬ。紙がこれしかないゆえ我慢してくれ……それでは始めるぞ……!」
そういうとミュウルニクスは、懐からさらにインクの入った瓶を取り出し、その羊皮紙に文字を書き始めた……。
俺は固唾を飲んで見守った。すでに鼻水は止まっていた。
「よし出来た!」
「んきゅう?」
ミュウルニクスはかがんで俺に羊皮紙を見せてくれた。
緑色の光に照らされたそれには……。
その羊皮紙には規則正しく文字が並んでいた。
なんていうか、その、アルファベットを順番に並べたような感じだ。
もっというなら日本語の《五十音図》というべきか。
下に数字のようなものが並んでいる。
「これを渡すわ」
そういってミュウルニクスは《羊皮紙》と《硬貨》を俺に渡した。
「よく見ておきなさい。羊皮紙を広げたら、こうやってコインを動かすの」
はい?
俺は彼女が何を言っているのか分からなかった。
ミュウルニクスは羊皮紙を床に広げた。
その上にコインを乗せ、決まった文字の上にコインを這わせる。
「これが《こんにちわ》。とりあえず今はこれだけ覚えておきなさい。他の言葉はまたそのうち教えるわ」
「くぎゅうううううう……!」
いや、待て待て待て……。
これってアレだろ?
地球でいう《コックリさん》だろ?
五十音図を書いた紙のうえにコインを置いて、文字を這わせるって……。
まんま《コックリさん》じゃないか?
確かにこれなら獣の俺でも人間と意志疎通できるとおもうが……。
ちきしょう!
俺が想像してたのと違う。
もっと凄い魔法道具をくれるとおもってたんだ……。
俺のワクワク感を返してくれ!
「まあ落ち着ついて。これほど低コストで使える道具は他にないわ。とりあえず今のところはこれでしょ? それにもう戻った方がいい。おまえが居ないとマリアやエドワードが訝しむ。勝手にこんな場所に居たら怒られるわよ?」
くそ。
なんか騙されてるような気もする。
でもしかたない。今日はこれをもって帰るか……。
明日になったらまた来るぞ。そのときはもっと文字を教えてくれよ!