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「蟲精は純粋な魔素を宿してるわ。それを吸い込めば、お前の体はより強化されるだろう。それが聖獣の特徴よ」
なんだって?
とても興味深いことを聞いた。
カーバンクルは魔素を吸い込むと、どんどん強くなっていくのか。
RPGに出てくる勇者がレベルアップして強くなるように。
だとしたら納得がいく。
地下迷宮に潜って俺の《照明魔法》が強化された。
それに前より身体能力が高くなっている。
「この場所にはたくさんの知識が眠っている。でもエドワードが望んでいる知識は地下迷宮の遥か底。人工の光では照らすことのできない闇のなかよ。そこを照らせるのは聖獣の光のみ」
つまり地下迷宮の下層には、松明でも照らせない特異な暗黒領域がある。
まさに真の暗黒の世界。
そこを照らせるのは聖獣カーバンクルの光だけ。
だからエドワードは大陸からカーバンクルの子供を買い取った……。
遥か底に眠る知識を得るために。
となると俺はただの貴族のペットではない。
エドワードが野望を成し遂げるための鍵だ。
なるほど。
エドワードが俺を地下迷宮に差し向ける理由が分かった。
だがひとつ疑問が浮かぶ。
エドワードが本当に手に入れたいものはなんだ?
服従魔法の知識とおもっていたが、なんか違う……。
もしかして領地がめちゃくちゃ荒らされているのと、なにか関係があるのか?
外で見た死骨狼たちとも関係が……?
マリアはなにか知っている?
彼女と話ができたら助かるのに。
くそ。
何か人間と意思疎通する方法はないか?
ミュウルニクスはしばらく腕を組んで考えていた。それからピシッと人差し指を俺に向けた。
その指が俺の鼻の穴に入った。
まただ……。
こんな暗い場所で、こんな近くでやるな。
またしても気まずい構図になった。
それでもミュウルニクスは気にせずに話す。
「獣のおまえが人間と意志疎通するための道具か? あるわ! おまえにピッタリの魔法道具がある」
ほんとうか?
すごい!
さすが狼魔貴族の娘、漆黒夜の魔女と呼ばれる上位魔族だ。
俺にはよく分からない肩書きだが、やっぱり凄い存在なんだなぁ。
それにどんなアイテムが出るのかワクワクする。