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俺はさっと回避すると、そいつは体勢を崩してガタンと床に倒れた。



「んきゅう?」



 俺は変な声を上げてしまった。

 そいつはまるで犬のような動きをしていたが、犬じゃなかった……。

 犬どころか、動物ですらない……。

 あまりの光景に俺は目を丸めて、、耳をぴこぴこと小刻みに動かした。

 もしかして俺は寝ぼけているのか?

 これは白昼夢か?

 それとも幻覚か?


 俺が見たのは動物というより……。

 というか、そこにあったのは《椅子》だった。


 4つの木製の脚が折れ曲がっていた。その脚の先端から錆びた釘が突き出している。まるで獣の爪だ。

 何らかの意思を持って、折れた脚が、動物の関節のようにカクカクと動いている。

 倒れた椅子が犬のように、脚をつかって起き上がろうとしていた。


 まさかポルタ―ガイスト?

 真っ先にその言葉が頭に浮かんだ。

 道具がひとりで動くもの。それがポルターガイスト現象。

 19世紀半ばのロンドンでは降霊術が流行っており、ポルターガイスト現象の記録もある。

 いわゆるテーブル・ターニングと呼ばれるものであり、西洋版こっくりさんだ。

 かの有名なルイス・キャロルやアーサー・コナン・ドイルも熱中してたらしい……。


 話が逸れたが、いま目の前にいる椅子の怪物は、まさしくポルターガイストではないか?

 ……とおもったが何か違う。

 ポルターガイス現象トは道具をガタガタと揺らすだけだ。

 こいつはもっと機敏に動いていた!


 だとしたら……ゴーレムの類かもしれない。

 物体に仮初めの命を吹き込み、主人の命令で動く人形。

 どこかにいる術者が、あの壊れた椅子に仮初めの命を吹き込んで操っている?


 そういうことか。

 もし誰かが、隠れながら見ているなら、そいつの目を潰してやる……!

 《照明魔法》を使えば、フラッシュのような光で視界を奪えるはずだ。

 相手が逃げようとしたら、その音を頼りに追いかける。


 俺は額の光石に意識を集中した。

 四肢の先から電気が溢れ出し、体を芯を通って額に集まる。

 エネルギーが溜まっていくのを覚え、それをいっきに放出する。

 閃光が薄暗い図書館の中を照らした。


 同時に《椅子》が飛び掛かってきた。

 だめだ。このままでは避けられない……!



「《解呪(スティル)》、《呪物(グラント)》」



 薄暗い広間に凛として響きわたる声。

 あの動く椅子が地面に突っ伏して静かになった。



「うふふ。私の人形に勝つとは……見事だった。さすがはあのエドワードが認めただけのことはある。私がこんなにべた褒めすることは滅多にないんだぞ。賢くて勇敢なカーバンクルよ……」



 青と碧色のコントラストが美しい民族衣装のような服を着ている人影……。

 そこにいたのは黒髪を肩まで伸ばした少女だった。



「んきゅ?」



 おもわず俺は間抜けな声を上げてしまった。

 その少女の顔はマリアにそっくりだった……。

 でもその少女は、マリアより切れ目できつい表情かおをしている……。いわゆるツンデレっぽい顔だ。

 もっと驚くのは、その少女の頭には狼のような耳が生えていること。

 さらに腰からはふさふさの尻尾まで生えていた。



「自己紹介が遅れたな。私はこの図書館に住まう魔族、漆黒夜ミッドナイトの魔女ミュウルニクス・ベオリール・サテュロスだ」



 なんというか。

 ひとつだけ分かったことがある。

 どうしてこの世界の住人はどや顔で自己紹介したがるのか?


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