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なぜそう思ったか分からない。
でも、このとき俺の中で確かに強い意志が芽生えた。
俺をこの異世界に転生させた神がいたとするなら?
その神が俺に異世界に招いた目的を述べたとするなら?
もしも神がいて、この領地を見たら俺になんて言うだろうか?
聖獣になったお前が伯爵に代わって、この荒れた領地を改革してくれ、と言うかもしれない……!
となれば。
これはもう農地改革からはじめた方がいいな。荒れた畑を肥やすには土壌改善が必要だ……。
最も簡単なのは堆肥システムだろう。
堆肥というのはすなわち藁や落ち葉、雑草などを積んで腐らせた肥料のことだ。
クロスカイン領のように火山灰で汚染された土地には、単純だがこれが一番有効な手段だ。
同時に日本では江戸時代に行われていた肥溜めシステムもきわめて有効だろう。
細菌が分解するときに熱が生まれる。高熱を伴うので、雑菌の繁殖を抑制できる。
そうやって植物の成長に必要なリンや窒素を取り出すことができる。
現代の日本人からすると抵抗はあるかもしれないが、これは非常に優れたリサイクルシステムだといえる。
とりあえず堆肥をつかって土壌改善を行いたい。
そうすれば食料は増える。領民が餓えることはなくなり、暴動が減って領内は安定する。
そうだ。
安定した食料の供給こそ、領地経営にとって一番重要なことだ。
前世で引き篭もりニートだったころ、ネットでいろんな雑学を見てきた。
それがまさか今ここで役に立つとは!
そのとき背後で音がした。
血に飢えた狼の唸り声がする。
暗闇のなか、俺は目を凝らして周囲をうかがう。
何か居る!?
白くて細いものが。
軽快なステップで右に左に跳びはねながら、しだいに距離を詰めてくる。
あれは……!
牙が目の前に迫ってきた。俺は後ろに跳び上がり、間一髪で避ける。
そのおぞましい姿に俺は驚愕した。
俺に襲い掛かってきたのは狼だ。
その狼には毛がなかった。
皮膚がなかった。肉がなかった。あるはずの眼球もない。眼窩には真っ黒な闇が広がっているばかり。
つまり骨しかない。
その骨だけの狼が、カラカラと音を立てながら、俺に迫ってくる。
「くぎゅう!」
俺は悲鳴を上げ、風ごとく逃走した。
4匹の骸骨狼に追われ、そいつらが飛び掛かってくるのを、方向転換しながら避ける。
この危険な状況で、俺は冷静に思考を巡らせていた。
あれがエドワードの言っていた死骨狼か?
なにか魔物の類か?
見れば全身が骨だけ。
筋肉がないのに骨格が動いているということは、こいつらは生きている動物じゃない。
なんらかの魔法により使役されていると見た方がいい。
元来の生物なら捕食によりカロリーを得て、運動エネルギーに代えている。だがこいつらは術者本人の魔力を還元して、運動エネルギーに変換しているはず。
となれば、こいつらは俺を食うために追いかけてるわけじゃない。
だとすると、いったい何を求めて俺を追いかけてくるんだ……?