そうだ、ソビエトしよう
宇宙世紀XXXX年
「*****!*******!」
某国大統領は怒り狂っていた。
その怒り狂った様子はレーニンが理想の男性ではなかった時のスターリンのようだった。
だが決して罵倒を発したりはしない。
罵倒語が辞書に載っていないことで分かるように正しい社会主義国家において品のない罵倒語など存在しないのだ。
「うちの国主導でソ連を復活させるって言ったのに!」
怒りの原因はロシアが密約を反故にしたことである。
某国主導によるソ連復活計画はロシア大統領に諸手を挙げて賛同されたはずだったのだ。
けして立ち話をしただけのロシア大統領に「面白い冗談だな」程度のことを死ぬほど冷たい目で言われただけではないはずである。
大統領の悲しみぶりはまるで仕事を干されたエジョフのようであった。
思わず十七連休を取ってしまったのもやむを得ないことであろう。
だがしかし、大統領が悲しみで枕を濡らしたと思った同志諸君はあまりにも愚かしいとしか言いようがない。
純国産の枕は防水加工を施していないにもかかわらず水をはじく仕様になっていた。
同志諸君も水をはじく枕という余りにも未来を見据えた大統領の慧眼に感嘆を禁じ得ないであろう。
《支持率108%》
大統領に不可能はない。
この常人には不可能と思われる数値はサイレントマジョリティーを考慮した厳正な結果である。
大統領の意思は国民の、いや、全世界の社会主義者の意思であると言っても過言ではない。
資本主義は崖っぷちにいる。
だが社会主義は常に資本主義の一歩先にいる。
このことから大統領を支持する賢明な社会主義者の意見のみを考慮すると全世界の人間が某国主導のソ連復活を望んでいることになる。
20世紀に崩壊した国家を宇宙世紀に復活させるとか、しかも「どこそれ?」って聞かれるような旧東側国家主導とかどういう冗談だよ、というのはあまりにも愚かしい考えであると言わざるを得ない。
そして十七連休の間に沈思黙考していた大統領の中では自国が中心になって偉大なるソビエト社会主義連邦共和国が復活する明確なビジョンが浮かんでいた。
けして引きこもって自分が称賛されるのを妄想していたのではない。
「そうだ、ソビエトしよう」
そして大統領はソビエト社会主義連邦共和国を某国主導で復活させるべく国際社会に働きかけた。
社会主義の崇高な理想を世界に広めるべく、まず周囲の国、そして南米やアフリカの国にも声をかけたが、あまりにも崇高な理想は凡人には理解できないものであった。
崇高な理想に見返りを求めるなどなんと愚かしいことであろうか。
国交断絶も考えたが国際社会が混乱するのは望ましくないので断腸の思いで断念した。
もちろん枕は純国産であることは言うまでもない。
「もういい。うちの国だけでソ連やる」
そしてソビエト連邦共和国は一国だけで復活した。
これはそんな孤高の為政者の物語…
ではなく、復活したソビエト社会主義連邦共和国の宇宙戦艦の一般兵のお話。
たぶん。