STEP2-4 ~夏の夜の夢・+~
その夜、夢を見た。
子供の頃の、夢。
夏の夕暮れ時。誰も知らない木立の奥で、俺は手を合わせていた。
泣きながら。弔うべきものを収めることもできなかった、小さな土盛りの前で。
『……キ。サーキ!』
振り返るとそこには、隣の家の少年がいた。
みんなにサクちゃんと呼ばれる子。
なぜかいつも話しかけてくるのだが、俺はこの子が苦手だった。
弱虫でなきむしの俺には、ケンカも強くて頭もいい、人気者のこいつはまぶしすぎた。
なにより、怖かった。
むっとむすんだ口元も、強くきらめくきつめの目つきも、ぶっきらぼうな仕草や言葉も。
だから俺は、一瞬かたまった――
* * * * *
『おはかか? だれの?』
『……』
『なあ』
ぼくのまえにしゃがんだサクちゃんが、すっかりあまなつ色の目で、ぼくの目をのぞきこんできた。
長いまつげのかげをおとした、びっくりするほどきれいな目。
そのとき、ぼくの口が、うごいてた。
まるで、ふしぎなまほうにかったみたいに。
『……、さんの……』
『?』
『ざっそう、さんの』
『……え?』
サクちゃんが、きょとん、とした。
ほんというとこわかった。きっとしかられる。じゃなかったら、わらわれる。
でも、ぼくはおもうんだ。だから言った。ゆうきをありったけ、ふりしぼって……
『だって、かわいそうだよっ!
おやさいや、おにわのお花は、だいじにそだてて、もらえるのに!
ざっそうさんは……ぬかれてっ、すてられて!!
おんなじなのに。みんな土からうまれたこなのに。じゃまだって、きらわれて……
ちゃんと、かわいい、お花だってさくのに。
……いきてるっ……のにっ……』
また、なみだが出てきた。はなみずも、しゃっくりも。くるしかった。
でも、ひっしで言った。きいてほしかったから。
どうしても、つたえたかったから。
だれかに。だれかに――
『……サキ。
土のパワーは、かぎりがあるんだ。
だから、花ややさいをそだてるなら、ほかのやつはあきらめなきゃならない。
それは、しってるか?』
『それでも、かなしい。
かわいそうで、かなしいっ……
……だから、おはか……つくっ…………』
あとは、ことばにならなかった。
サクちゃんが、いつも以上にぎゅっ、と口をむすんで、ぐっ、とうでぐみをしても。
『……しかたのないやつだな!』
でもサクちゃんは。そのこわいこわいかおで、言った。
『それじゃあ、オレもいっしょに、おがむ!』
* * * * *
ぽかんとした俺の横に、ずんずん歩いてきてサクちゃんは、ぱんっと手を合わせた。
とてもとても、真剣な様子で。
俺も彼に並び、もういちど手を合わせた。
そうして、俺たちはいっしょに祈った。
空にいくつも星が出て、みんなの探す声が聞こえてくるまで、ずっと。
その日から俺たちは、一番の親友になった。