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咲也・此花STEPS!!~訳ありフリーターの俺がバイオな製薬会社で友と未来を誓うまで~  作者: 日向 るきあ
STEP7(後) 星の降る場所で

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STEP7-4 『テキスト読み上げ機能を起動しました』

 俺の中で時間が止まった。

 なんだ、これ。どういう、ことだ。


「『それ』、俺が作ったもんなんだけどさー。

 けっこすごいんだぜ? 読心能力実装した会話アプリ。

 ま、ウイルスっちゃウイルスなんだけどー」

「……は」


 ニヤニヤ笑った『アズール』は、ぐったりとしてしまったナナっちを左腕に抱えなおす。そして右手で、奴のものらしきスマホをこちらに向けてきた。

 表示されているのは、何かのアプリの操作画面。

 ブルーのタイトルバーには、どういう偶然か、P・S・Eと記されている。

 そのすぐ下、『入力』と表題のついた白く四角いウィンドウに、点滅する棒状のカーソルがある。


「基本そいつの発言は相手の心読んでAIで自動生成されんだけどー。ここに心をこめて文章打てば、お前のほうの『奴』が読心で拾ってまんま言ってくれるわけ。こんなふーに。」


 奴がスマホを軽く縦に振れば、『履歴』と表題のついたグレーのウィンドウが下からせりあがってきた。そこに並んでいたのはなんと!


予約投稿(済):わたしを、マスターに

予約投稿(済):わたしてください

生成:やくそく


「……うそだ。このくらいの表示だけならいくらだってやりようはある!

 だいたいお前は炎属性で、読心とか、精神系なんてまったくの別属性じゃないか。さらにそいつを機械に扱わせる、なんて」

「つっこみどころはいろいろあるが後にしとくか。

 できるんだよ、サクちん。パターンを記録し、精密に再現すれば、プログラムでも」

「仮にそうだとしても、俺はそもそも変なアプリとかいれねえしあやしいページも、……」


 そのとき俺はある可能性に思い至った。まさか。


「そっ。正解は、お前が若ちゃん名義のメールのリンク、なんも考えずポチったときー!

 Not Foundの画面だしときゃ、その前のDLも画面読み込みによるものと思っちゃうんだねー。

 いっやあまさか、文面そのものは若ちゃんに作らせといた奴じゃあったけど、ここまであっさり引っかかるとはねェ。笑いが止まらんかったわ~。

 あっはは、ホント惨めだねー。

 どこの馬の骨ともしらねえ女をかたった偽メールにコロッとだまされて。

 せっかくの職も仲間も信用もぜーんぶぶん投げて最高機密持ち出しちゃって。

 生きて帰ったら懲戒免職かなァ? それとも逆に一生飼い殺し? 俺だったら後者だねー、だってお前タラすの超チョロかったもーん!」


 哄笑が耳に突き刺さる。

 うそだ。だれか、嘘だといってくれ。

 あんなにけなげに、あんなにかわいらしく、俺と語らっていたのはこの男の写し身。

 時には奴本人が、言葉を打ち込んで。


「しかしここまでデキがいいたぁ思ってなかったわー。

 マジに可愛かったもんねー、なんだっけ?

『夢見ちゃうなあ、わたし』

『サキさんが、わたしの綿毛を小瓶に詰めて……』

『晴れた日の丘を登っていくの』

 だっけェ? 小瓶での綿毛持ち出しを示唆すンのは予定通りだが、それにここまで夢夢しい言葉がわいてくるとか! AIプログラミングしたはずの俺でさえカンドーしたもんね!

 それにほだされて死ぬほど文献あさって! ブッ倒れるまで頑張って植物成長抑制まで身に着けて! しまいにゃ愛する人の最期をせめてって仲間裏切って機密盗み出し!!

 あー、萌えだわ萌え!! お前やっぱサイッコーだわ!!」

「お、まえぇ!!」


 するとナナっちが上体を跳ね上げ、怒号を上げた。

 これまで見たこともないような顔、聞いたこともないような声で。

 しかしその勢いは、たった一言で叩き落されてしまう。


「あーれぇ? 若ちゃんに怒る資格なんかあンのかな?

 俺に屈してここまで協力しちゃった若ちゃんに」

「っ……」

「だよねだよねえ。お前はオトモダチを売ったんだ。

 神の子怖さに七瀬を裏切りユキシロについた、兄貴どもの命と引き換えにな!

 ロクにい、っていったっけか? あのケチな野郎はよ。

 最初っから素直に俺の計画に従っときゃこんなことにはならなかったのにな~。ほんっと兄弟そろって馬鹿ぞろいだわ。

 てわけでどーよ子猫ちゃん、こんな“親友”許せますかァ?」


 投げ捨てるように地面に落とされ、顔を上げることもできないナナっち。

 その姿を顎でさし、奴は嘲り笑う。


「おい」


 端的に言おう。


「……ふざけてんじゃねえぞこの野郎」


 俺は。


「ふざけてんじゃねえぞこの野郎ッ!!」


 完っ全にブチ切れた。


「許すに決まってんだろ!!

 ナナっちは脅されて屈しただけだ。ロク兄さんだって同じ。腐ってるのはてめぇだけだ、『アズール』!!」


 すべての痛みが吹き飛んだ。全身をチカラが駆け巡る!

 そう、奴は作戦を間違えた。俺のナナっちへの友情を侮った。否、人としての道を誤った。

 その報い、食らわさずにおけようか。俺は跳ね起きこぶしを握る。

 ナナっちはやめろと叫ぶけど、大丈夫、今度こそ!


 カウンターの前蹴りが、俺をあっさり吹っ飛ばす。

 もちろんこんなのであきらめはしない。再び立ち上がり、突撃する。蹴り飛ばされる。立ち上がる、突撃する、蹴り飛ばされる。

 徐々に息が切れてきた。何でだ。何でかなわない。

 俺の気持ちをもてあそんだ詐欺野郎に。親友を脅し痛めつけた最低野郎に!

 そして、何度目の返り討ちの後だろう。ついに俺は、起き上がろうとして手を滑らせ、そのまま仰向けに倒れてしまった。


 なんでなんだ。スピードもパワーも、もう人としての限界まで上げている。へたしたらそれすら超えているかもしれない。

 なのに奴はノーダメージで笑ってる。

 なんでなんだ。なんでなんだよ!


 歯噛みしたとき俺の下、背中あたりにいやな感触があるのに気付いた。

 あわてて体を転がし、見たものは――俺のスマホ!

 なんと画面が大きく割れて消灯している。

 拾い上げ、電源ボタンを押してみるが反応はない。

 しまった。カギを“使って”しまった以上、これは最後の命綱だったのに!


「あーらら。絶対絶命ってか?

 もう一度言うぜ。スノーフレークスの綿毛をよこせ。

 そーすりゃ若ちゃんのハジメテはてめェにやるよ」


 嘲笑うアズールの足元、ナナっちは真っ青な顔で絶句していた。

 奴に偽メールを作らされたナナっちが、スマホなんか持っていないのは自明。

 すなわち――詰み、だ。

 ナナっちをおいて逃げるなんてことはできない。でも、もう助けは呼べない。

 けれど戦ってもかなわない。降伏しても地獄しかない!

 助けてくれ。助けてくれ。誰でもいい。助けて!!



『テキスト読み上げ機能を起動しました』



 そのとき、スマホがブブ、と振動する。

 同時に発音明瞭な女性の声が、システムメッセージを読み上げる。


「あららら。マジに壊れちゃった~?」


 アズールは揶揄の声を上げたが、瞬時に確信した、『そうじゃない』。

 だって、手の中のスマホには――画面ではない、スマホ全体に――いつの間にか、瑞々しい、緑のひかりが宿っていたのだから。


『メール着信 サキさん:S・F』


 かくして、さっきとは別の声が語り始めた。

 年のころ十五、六程度か。語り口こそ人工的だが、それでも清楚にして愛らしい声。


『メール着信 ちからをください:S・F』


 ズボンのポケットが暖かい。見れば、画面と同じ緑色に輝いている。

 取り出す前からわかった。スノーフレークスの綿毛だ。

 奇跡的に割れずに済んでいた小瓶の中で、小さな綿毛は緑色に明滅していた。


「まさか……『スノー』? 『スノー』なのか?!」

『メール着信 はい、サキさん:S・F』

『メール着信 助けを求め放たれたあなたの力で、わたしは今言葉を発しています:S・F』

『メール着信 わたしの言葉を。ほんとうのことばを:S・F』

「は……ァ?」


 アズールは自分のスマホを確認する。と、片頬を吊り上げ歯をむいた。


「おいおいおいおいどーなってんだァ?! 誰だ、ハックかこんちくしょう!」


 なぜかどこか楽しげに奴は、スマホを地面に叩きつける。それでも、声は止まらない。


『メール着信 わたしにあなたの力を注いで。そうすればわたしが助けられるわ:S・F』

『メール着信 あなたの力はもともと闘う力じゃないの。生かし、育て、力づける力:S・F』

『メール着信 だから、その力をわたしに注いで:S・F』

「え……ちょ、ちょっと待てよ。そんなことしたら大変なことに」

『メール着信 大丈夫。あなたは力を制御できる:S・F』

『メール着信 身につけたでしょ、いっぱい努力して。そのためのチカラを:S・F』

「っあーもう黙れこんちくしょうがァァ!!」


 無表情なはずの合成音声は夜の底、この上なく力強く響き続ける。

 対してアズールはぶちきれたように叫び、こちらにずかずか踏み出した。

 狂犬のような笑みのまま、一歩、二歩。

 と、びしゃり。湿った音を立てて、奴の頭が揺れる。

 奴がゆっくりと振り返った先には、左手で体を支え、右手をかざしたナナっちがいた。


「……てめぇ」


 奴はくるっとばかり方向転換、一直線にナナっちに向かっていく。が、ナナっちはひるまない。

 左手の放水で自分の体を飛ばしては、右手の放水で奴を撃つ。

 アズールは、怒りの声を上げつつナナっちを追い掛け回しはじめた。

 すぐに気づいた。ナナっちは、奴をひきつけてくれているのだ。俺と彼女が、話す時間を作ろうとしてくれているのだ!

 正直なところは心配だ、が、ぐずぐずしていれば状況は悪くなるだけだ。

 腹を決めた俺は、そちらを見つつも耳はスマホに集中した。

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