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咲也・此花STEPS!!~訳ありフリーターの俺がバイオな製薬会社で友と未来を誓うまで~  作者: 日向 るきあ
STEP0(本) もしも、神がいるならば

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STEP0--1 回想~サクとの再会~

 じいちゃんばあちゃん、親父おふくろ、姉貴と兄貴、俺とタマ(猫)。

 家族のそろったちゃぶ台で、ついにおふくろがそれを言い出した。


『ところでサキ。仕事はみつかったの?』

『えー、いちおー……』

『バイトじゃない、正社員のよ?』


 おふくろにつづき、姉貴が突っ込んでくる。


『えっと、いくつかまあ、面接は……』

『で?』

『っ……』


 いつの間にか、麦茶のグラスがじっとりと汗をかいている。俺はそいつをテーブルに置き、逃げ出す口実を本格的に探し始めた。

 その間にも、姉貴は続ける。


『やっぱウチにもどってくれば? なんだかんだいって、あんた天才じゃない。

 ウチの家系が代々グリーン・サムぞろいったって、あんたはダンゼン段違いよ』


 この世の中にはいろいろな才能がある。

 グリーン・サム。または、緑の親指と呼ばれるものもそのひとつ。

 なにかというと、植物を育てることがうまい。栽培の天才、というやつだ。

 だが。


『小学校のときのあさがおの観察から始まって、ヒヤシンスの水栽培、へちまの栽培、学級花壇のひまわり……あんたのだけ別の植物じゃないかってくらい繁茂しまくったじゃない。

 ていうかあんたが近くを通るだけで庭の草木が元気になる、作物の収量がふえるって評判だったのよ。きっとあんたはほんとに神の』

『偶然だろ』


 それが本当だとしても、いや本当ならばこそ、俺は農業なんかやりたくない。

 いや、やってはいけないのだ。

 なぜって。


『やめておあげよ、サキは』

『でも……。』


 ばあちゃんが制止し、姉貴がうつむいた。

 居間が、静けさに包まれた――2秒間だけ。

 おふくろが、声を明るくして話し出したからだ。


『そういえばサクちゃん、社長さんになったんですってよ。ほらあの、ユキシロ製薬の』


 その瞬間、居間にいた人間全員がおふくろに感謝した。

 姉貴ときたら、別人のようなテンションで声を弾ませて、さらには毎度の無茶振りだ。


『ユキシロ製薬って、こないだまた新しい抗がん剤を開発したってニュースになってた?!

 ちょっとサキ! どうせならもうお嫁にもらってもらいなさいよ、サクちゃんなかよしでしょ? いいじゃない永久就職!!』

『いやいやどーしてそーなるよ!! っていうか俺あれからサクとつきあいなかったし!

 つかサクのやつ変わりすぎでなんつか誰おまだし……』

『いいじゃなーい、王子様みたいでー。あーもーわたし結婚早まったかなー。どーしてこの国は多夫一妻制じゃないのかなーもー』


 俺はあきれ返った。そもそもの話な、なんで男の俺が『嫁』に行かねばならんのよ。

 そう言おうとしたものの、きっと言うだけ不毛と思い直し、置いたグラスを手に取った。

 ぬるくなってきた中身を一口飲む。


 いや、飲もうとしてぶっと吹いた。

 ちゃぶ台の向こう、ガラス障子がどばーんと開く!

 フルオープンとなったそこにはそして、うわさの王子が仁王立ちしていたのだった。



『話は聞かせてもらいましたっ!

 サキ、だったらうちにこないか。ファーム部門の人が足りないんだ。

 せっかくのお前の才能、活かさないなんてもったいないぞ!』

『いや、その……』


 深緑色のおめめをきらきらさせた“王子様”は、ずんずんとこちらに迫ってきた。

 無駄に勢いのよすぎるこの登場は、やんちゃな少年の頃のまま。

 だが他は、なんつうか変わり過ぎだ。


 まず、瞳の色が変わってる。黒にも近い、美しい深緑色――瞳の色が変わるのはこの国でもたまにあることらしいが、もとの亜麻色からするとやっぱ別人。

 こんがり日焼けしたきつめの顔は、汗ひとつ浮かんでいない端正なマスクに。いつも短く刈られていた亜麻色の髪は適度に伸ばされ、絶妙な曲線を描く短髪に。

 短パン・ランニングが定番だった腕白チビはどこへやら。いまや奴は均整の取れた長身で、よさげな黒のポロと白のチノパンを涼やかに着こなし、我が家の居間に君臨していた。


 ぶっちゃけ言えば、場違いだ。これはこんなド田舎のせまっちい居間に存在しているシロモノじゃない。それこそ、都心のテレビ局とかどっかの宮殿とかに鎮座してるべきモノだろう。

 だが当の本人はそんなん構う様子もない。ずんずん距離をつめてくる。

 マジメに歌わせたなら天下一品だろう、さりげに甘く、よく響く声でまくしたてながら。


『うちのファームはすべて完全制御型だ。

 クリーンルーム内で空気清浄機構もばっちりだからシックハウス症候群なんか起きやしない。もちろん雑草だって生えてこないぞ!』

『ちょっ近い近い近……え?』


 いつのまにやら奴は俺に頭突きをせんばかりの体勢になっていたが、俺はそれを一瞬で失念した。

 シックハウス症候群が起きない。

 そしてなにより。


『雑草、生えてこないのか?

 ほんとに雑草、とらなくていいんだな?』

『もちろんだとも』


 その瞬間、俺はやつの両手を握っていた。

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