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咲也・此花STEPS!!~訳ありフリーターの俺がバイオな製薬会社で友と未来を誓うまで~  作者: 日向 るきあ
STEP6. P・S・E

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STEP6-2 ~プロジェクト『天才逆転計画』!~1

 きっかけは、日曜日の昼下がり。

 ひたすら考えこみながら、本社ビル内を歩きまわっていたときだ。

 ふいに愛らしいかけ声が耳にとびこんできた。

 足を止めればそこは室内練習場のまえ。場内をのぞけば、Tシャツ姿のシャサさんとルナさんがいた。


「それではもう一度、参りますわ……えいっ!!」


 ルナさんがぴしっと右手を突き出せば、掌からオレンジ色の暖かそうな光があふれ出た。

 3mほど先に立っていたろうそくに、ぽっと火をともす。


「おおっ、ついたついた! いいよルナっち、そのちょーし!!」

「ふう……やっとここまでたどりつきましたわ。

 やはり、裏属性の制御は難しいですわね」

「裏……属性?」


 なんだかやけにファンタジーな用語が飛び出してきた。これは果たして現実なのだろうか。


「あら、此花さん。ごきげんよう!

 此花さんもとれーにんぐですの?」


 思わず呟けばルナさんが振り返り、人なつこい笑顔でとてとてと駆け寄ってきた。可愛い。

 なぜか『とれーにんぐ』がひらがなに聞こえるところも含めて。

 鮮やかな青のショートパンツがまたまぶし……い、いや違うぞ『スノー』。これはあくまで妹を見るような気持ちだからな?!

 なんて考えてるとシャサさんもニコニコ歩いてきた。

 ちなみにこちらのボトムスは今日はオレンジのジャージ。惜し……いやその、ゴホンゴホン。


「よーすサクっち~。どーしたの? 浮かない顔だね?

 よければおねーさんたちに話してごらん?」

「いやー、うーん……」

「ハッ!! これはもしかして……

 うんうん、人間そういうことってあるものだよね!

 大丈夫、アタマがスッキリしないときは身体を動かせば何とかなる!

 さあサクっちも、ともに青春の汗を流そーじゃないかー!!」

「いや俺そろそろ青春って歳じゃ」

「人生一生青春ですわ。さ、参りましょう!」

「いやいや! 俺はいまちょーどお取り込み中でっ!

 たまたまなんだかファンタジーな用語が聞こえたから気になっただけでして――!!」


 美人と美少女に誘われるとか正直うれしい、うれしいが今は断然それどころじゃない。とりあえず例の用語の解説だけ聞かせてもらってここは失礼しようとこころみた。

 はたしてシャサさんは、俺を引きずり込もうとするのを忘れてぽん、と手を打った。


「ああ、サクっちにはまだちゃんと教えてなかったっけ。

 まず、『属性』ってわかるよね?」


 俺は戸惑った。普通に考えればこれ、RPGとかで出てくる魔法とかのソレだけど、これは素直に答えていいものだろうか……

 迷ったけれど、ほかに選択肢もない。ここは愚直に答えてみることにする。


「えっと、攻撃とか回復とか、炎とか氷とか、でいいんスか?」

「そうそう。

 そういった『属性』をもった技――こないだ見せた『ヒートフォース』や、サクっちの『高速回復』『成長促進』とかを、まとめて『属性技』っていうの。

『属性技』は、基本的に身体の中の『気』を放出するだけで使える。呪文も魔法陣も、杖も要らない。

 魔法じゃなくて、キャラ別の必殺技って考えたほうがしっくりくるかんじね」

「はあ」


 ……俺って確か、現実世界の製薬会社に就職したんだよね。そのはずだよね。

 俺が小学生だったら小躍りしていただろう。でも俺は二十歳だ。いい年をした成人男性だ。

 なんだか狐につままれたような気持ちだったが、まずは理解を試みる。

 シャサさんはというと、知ってかしらずか、ニコニコと説明を続けている。


「だからもともとその人が持ってない『属性』のものは、基本的に『使えない』。

 たとえば、サクっちの攻撃技はいまだに萌え萌え~だけど、回復はいきなりばっちりできたでしょ?

 逆にあたしは、ああいうのは得意だけど、回復はぜんぜん。

 これってのは、あたしとサクっちが生まれつき持ってる『属性』の違いからなんだ。

 この生まれつきの『属性』を『本属性』っていうの。

 体の中から放出される『気』は、『本属性』の味付けをされて『属性技』になる。

 この一連の流れを、スムーズに効果的にやるための技術、それがあたしの教えてる『操気法』の基本なんだ」

「基本……てことは、応用が?」

「そ!

『操気法』を応用すれば、属性を一時的に変化させることができるんだ。

 一番楽なのは、『裏属性』への転換ね。

 攻撃なら回復。熱気なら冷気。

 こうした表裏一体の属性ってのは、そうじゃない『別属性』より、むしろ近い間柄なんだ。

 だから実は、『別属性』よりむしろ、ラクに転換できるものなんだよね。

 そして『裏属性』の制御を鍛えていけば本ぞくせ……あれ、サクっち?!」

「それだああああ!!」



『栽培の天才』の力で、植物の成長が促進されてしまうなら――

 そんな力があるならばこそ、それを逆転させられる可能性も逆にある。

 そのことを、俺は知ったのだ。

 そうして、この計画を思いついた。


 植物を繁茂させる俺の力を、繰気法を用いて逆転する、もしくは、停止させる。

 その方法を身につけ確立させる。

 これができれば、社としても新たな展望が見えるのではないか。

 少なくともそのための、基幹技術となると考えられる、と俺はプレゼンしたのだ。


 これなら研究に、他の人たちの知恵と力を借りることができる。

 そうすれば『モンスタープラントの汚名を着せられたスノーフレークスを、自由の世界に連れ出してやるぞ大作戦』は加速する。

 なによりこれならば、俺自身が直接『スノー』に逢える条件も整う。

 ぶっちゃけ、いいことずくめなのである。


 社長はニコニコと俺をからかう。


「しかし、ここのところやけに張り切っているな。

 一体何があったのだ。落としたい女性でもできたのか?」

「ぶっ!!

 そ、そそそそそんなめっそうもない!! 俺はそんな、不埒なことはひとっかけらも」

「……ほほう」


 あれっ、いまなんかへんなスイッチ入った!

 この数日でわかったのだが、社長はシスコンだ。それも重度の。

 ルナさんと誰かがいい雰囲気になりそうと察知すると、たとえ用事の最中でも走ってチョップしに来たりする。

 うっかりかわいいかわいい言ってると、こんな風にごーじゃすな笑顔で威嚇されたりする。

『あれさえなければ完璧なんだけど……』とみんなが口を揃えるほどに、社内では有名だ。


「いやっ違う違います!! 俺はそんな、ルナさんのことはあくまで」

「わたしの天使の愛くるしさに心底参っていないだと? ますます聞き捨てならんな。ここは一度じっくりと」

「ちょっとまてえええ!!」


 * * * * *


 末期のシスコンドSがなんとか鎮まると、ようやくプロジェクトはスタートした。

 その名も、『天才逆転計画』。

 俺は正式に特殊技官兼務の辞令を受け、通常業務と研修、勉強会の傍ら、シャサさんによる操気法の徹底指導を受けた。


「はい吸ってー、吐いてー。とめてー。GO!!」

「てえい!!」


 俺が念じると、目の前でぽんぽんぽんと花が咲く。


「今度は成長止める! ……こらそっち、制御もれてる!!」

 しまった、右端、実がなってしまってる。

「よーしもう一回!! アゲていくぞー!!」

「はいっ!!」


 室内練習場に、野菜の種を植え付けたプランターをいくつも並べる。

 シャサさんの合図で植物の成長を<促進>させては、また止める。

 これ、見た目は笑っちゃうほどプリティーファンシーなのだが、何度もやるとかなりきつい。

 どのくらいきついかというと、そこそこレベルのシックハウス症候群がさわやかな青春のメモリーに思えてくるレベルだ。


 それでも俺は、手を抜く気にはならなかった。

 早朝や夕食の直前、ランニングやストレッチを装っては庭に出、こっそりと自習を重ねた。

 一刻も早く『スノー』に逢いたかったから。

 本当は、自主トレは禁止されていたのだけれど。



 夕日が照る中、たんぽぽが見る間に発芽、成長。

 開花し綿毛ができたところでいったんとめる。よしよし、いけてきたぞ。

 そのとき、背後から慌てた声が聞こえてきた。ふりかえらずともわかる、シャサさんだ。


「……っち! サクっち!!

 なにやってるの?!」

「あ……シャサ……さん。

 大丈夫、まだまだいけますっ!!」

「なに言ってるの!! 行くよ医務室!!

 だから勝手に自主トレしちゃダメって……」

「平気ですっ! この程度……こ……の……」


 あれ、声が出ない。それに急にたんぽぽが横向きになったぞ。どうなってるんだこれ。

 シャサさんがなにか言ってるみたいだけど、声が小さくてよく聞こえない。ごめん、もうすこし、大きな声で――

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