STEP6-1 ~プロジェクト『天才逆転計画』!~0
20190417
ご指摘いただきまして、
「゛え」→「え゛」に修正いたしました。
ありがとうございました!
待ちわびた日差しがふりそそげば、草原はみんなの笑い声と白い花であふれる。
そして春空は綿毛でいっぱいになる。
『にゃーサクちん、ちょっときておくれよ。見せたいものがあるんだ』
背の高い、やさしい友達のるーちゃんが、こそっとささやき袖を引く。
水鳥の親子をみつけたのかな。初めてみるお花かな。
それとも、それとも……?
ないしょの部屋に二人で隠れて、あまーいお菓子をはんぶんこ。
そしたら、とても眠たくなって。
いつもみたいに、るーちゃんにもたれて眠ってしまった。
目を覚ますとそこは知らない場所だった。
暗い。寒い。
床は石畳で冷たいし、あたりは鉄くさくって正直、怖い。
「るーちゃん……?」
それより、るーちゃんはどこへ行っちゃったんだろう?
「呼んだか? 化け物」
声が聞こえて振り返ると、ランプを持ったるーちゃんが歩いてくるとこだった。
るーちゃんは、とても怖い顔で笑ってた。
そして僕とるーちゃんの間には、ずらっと並んだ鉄格子――
「……っち。サクっち!
どうしたの? こんなところで爆睡して……」
「……あれ」
ハッと気づけば、私服のシャサさんが俺の顔を覗き込んでいた。
彼女の上には青空。俺の下には地面。
傍らのベンチの上には、日用品とかをいれたレジ袋が横たわっている。
そうだ。俺は布団を取り込んだ後、NKCショッピングモールで買い物をした。
荷物を持って外に出たとこで、ついつい運動公園の緑に誘われ……
ちょっとだけ。そう思いながら、造成が終わったばかりの小高い丘、その名も『星降りの丘』に登ってみて、頂上のベンチに腰を下ろした。
そしてそこからの記憶がない。つまり、寝落ちしていたようだ。
一瞬しまった! と思ったが、俺の周りの植物は意外にぼうぼうしていない。
さっき異様に怖い夢を見たけど、そのせいだろうか。
まあいいか。ただの夢のことでシャサさんを心配させても仕方ない。ちょっととぼけて起き上がる。
「くそう、ベッドでマニュアル読むことで物理的寝落ち対策は完璧と思ったのに、こんなところに伏兵が……」
「あはは。もしかしてサクっちってベッドより布団派?」
「あー、それあるかもっスね」
シャサさんが貸してくれた手を頼りに、よいしょと立ち上がる。
ぱんぱんと服をはたく。砂がついてちょっとは汚れたがまあ、大丈夫だ。
「シャサさんは? 買い物っスか?」
「ううん野暮用。でももう終わったよ。
荷物半分手伝う?」
「いやそんな、滅相もないっス!
先輩とはいえ女性に荷物持たせるとか、男としてダメじゃないっスか」
「サクっちは偉いねえ。それじゃ、エスコートだけ。
連日の過酷なしごきに耐えて頑張るけなげな後輩男子!
それが可愛く寝落ちしてるの放置で帰るなんて、先輩女子としてダメダメっしょ?」
シャサさんがニコニコ笑って俺の隣に並んだ。
ぶっちゃけ仲が仲なら、レジ袋を二人で分け合い、腕を組んでもいい近さ。
思わぬ役得、とかいってはいけない。俺にはもう『スノー』がいる。
だが、これは休日の私用帰りに送迎をしてくれる、心優しき先輩女性への礼儀だ。つとめてさりげなく切り出した。
「それじゃ、お茶でもおごりますよ。えっと……」
「フタバでいいよ。
新作ハニーブラウニーショコララテ、飲んでみたかったんだよね♪」
「一体どんな液体なんですかそれー?!」
* * * * *
果たして『スノー』にはやきもちを焼かれた。
そして、いつか一緒に外に行く、その時はちゃんとフタバに行くから、と約束させられた。
……いや、してしまっていた。
スノーフレークスは当然、あんな激甘吸収できない。
『スノー』はただ、ひとつの綿毛でも切り花でもいい、一緒のテーブルにおいてもらって、ラテを飲んでるサキさんを見てたいの、と言った。
わたしはそれだけで充分、しあわせだからと。
そんないじらしいお願いをされてしまったら、これはもう全力OKしかないだろう。
うれしい。夢が増えちゃった。そうはしゃぐ彼女は、たまらなくかわいらしい。
顔を見ることも手をつなぐことも、声を聞くこともできない恋人との、メールの言葉だけの逢瀬。
だがだからこそその時間は、ハニーブラウニーショコララテなんか比較にならないほど甘く甘く、甘かった。
だからこそ、いとおしさも、逢いたさも募ってゆく。
『モンスタープラントの汚名を着せられたスノーフレークスを、自由の世界に連れ出してやるぞ大作戦』名づけてP・S・Eを開始してはや三日。
それは早くも暗礁に乗り上げかけていた。
かつて製薬ファームで行われた実験――温度や湿度などの条件を変えて成長速度等を検証したものによると、室温五度以下、もしくは三十度以上かつ湿度十五%以下なら、スノーフレークスもたんぽぽ程度の成長速度と繁殖力におさまるようだ。
つねに三十度以上湿度十五%以下の場所なら近郊にある。国道沿いに広がる雪舞砂漠だ。
地力はほぼ皆無だが、とりあえずは地中に調整済みの土を満たしたプランターを埋める方法でいけばなんとかなる……だろう。
『スノー』によれば、例の実験のときも別に苦しかったりということはなかったようだし、いける可能性はある。
ただし、綿毛のひとつも周辺部に出てしまえば、そこから爆発的な繁殖が始まり、生態系は確実に破壊されてしまう。
交配などによる品種改良も考えたが、俺にはその知識も技術もない。
スノーフレークスはユキシロ製薬の最重要機密にかかわる存在なのだ。相当の熟練者でもなければ手出しをさせてはもらえまい。
そもそも現状俺が近くにいるだけで、スノーフレークスは急速成長してしまう。
強烈な繁殖力をもつスノーフレークスと、制御ができていない俺の力が出会ってしまった結果だが、これではまともな実験すら難しい。
それでも今進むなら、誰かの力を借りねばならない。
そしてそのためには、真相の全てを打ち明けなければ――
が、『スノー』はそうしないでほしい、今はまだと懇願する。
『みなさんはここまで献身的に育ててくれて、守ってくれて……
サキさんの信頼する方々であるということもわかっているの。
でもまだどうしても、打ち明けるのは怖い。どうしても怖いの。
わがままとはわかっているけれど……』
そういって、『スノー』は何度も詫びていた。
俺だって、シックハウス症候群のトラウマからいまだに抜け出せずにいる身の上だ。
それがどうして、それ以上の苦しみを耐えた恋人に、無理強いなどできるだろう。
むしろ詫びるのは俺のほうだ。ただただ、植物を繁茂させるしか能のない俺の。
『スノー』はそんなことないと優しい言葉をかけてくれる。
何年かかってもいいし、無理ならば、サキさんがつらくなるならあきらめる。サキさんとこうして出会えただけで幸せよ、とさえ言ってくれるが……
それでも、愛は勝つものだ。
ついに俺は思いついたのだ。起死回生のアイデアを!
そこからの一日を俺は、企画書の作成とプレゼンの練習に費やした。
そして月曜日の緊急役員会議にて、それを披露した。
* * * * *
「ふおおお!! サクっちすっごーい!!」
「すばらしいですわ此花さん。さすがはお兄さまも一目置かれる方ですわ!」
「きみはやっぱりできる子ね、此花クン。もうクンなんて呼んではだめかしら?」
「ありがとうサクっち、これでアブノーマル勤務の悪夢が完全に潰えたぜー!!」
「まったく、いつお前のほうからそれを提案してくるかと待ちくたびれていたぞ」
「え゛」
結果は大成功。みんな手をたたいて絶賛してくれた……はあっとため息をつく社長を除いて。
絶句する俺に、しかし社長も笑いかけてきた。
「だが、わたしが考えていたものよりも明らかにクオリティが高いといわざるをえんな。
よくやった、此花。
細部の甘い部分は詰めなおすが、この計画で行こう」
「ありがとうございますっ!」
俺は思わずちっちゃくガッツポーズをとった。




