STEP4-3 ~俺に目覚めた真の力(仮)は萌え萌えシャボン玉攻撃だったようです(泣)~
ラジオ体操にストレッチ。ランニング。
定番のウォームアップから始まって、教えられたのは護身術だった。
といっても最初にきたのは、まるでカンフー映画で見るような無茶振り。
室内練習場のまんなかには、直径3cm程度の白いろうそくが一本。俺の胸くらいの高さのシンプルな燭台の上で、静かに炎をあげている。
シャサさんはそこから2mほど離れた場所に俺を立たせ、ニコニコと言った。
「さてサクっち。まずはこのろうそくの火を消してみて。
ただし息を吹きかけたり、芯を素手でつかんだり、回し蹴りの風圧で消すとかは禁止だよ」
「いや最初の以外できません先生っ!!」
「うむうむ、そっちもいずれは指導しないとね!」
腕組みをしてうんうんとうなずくシャサさん。
まっ白なTシャツにえんじのジャージズボン、という姿がみょーにハマっている……のはいいが、根本的に言ってることがおかしい気がするのは気のせいか。
「この人は一体俺をどんな健康体にするつもりなんだろう……」
「ふっふっふ。
言ってなかったね。今日はキミに秘められた、真のチカラに覚醒してもらうっ!!」
どどん!
なぞの大見得を切ったシャサさんは、どこぞのバトルマンガのごときセリフをのたまった。
なんか、不敵な笑顔で。俺の目には見えない、なんかの星まで指差して。
「……おー(パチパチパチ)」
「なんという模範的な投げやりリアクション!
ならばワガハイがお手本を見せてあげようぞ――はあっ!!」
その瞬間。ろうそくが消えた。
それもろうそくの火が、じゃない。ろうそくの上半分が、あとかたもなく、だ。
俺は見た。シャサさんの左掌、ろうそくに向けて開かれたそこから、金色がかったオレンジ色の、なんだか熱そうな光が出ていたのを!
「お……」
「あはは、これが悪い見本よ。
あーひっさびさにいいとこ見せようとしたら力みすぎちゃったなー。サクっちはこーなっちゃダメだからね?」
「っじゃなくってっ!!!!」
シャサさんはごまかすように笑っているが、やっぱりおかしい、言ってることが。
そう、問題はそこじゃない。
「いまのなに?! はどーけん?!」
「うーん。いっそここはフォースといってほしかったなー。
これは体内の気を操って放出する、基本的な技よ。まずはここからはじめましょう。
大丈夫、栽培の天才ならば全員ができる技だから! サクっちならばよゆーよゆー!!」
……なぜだろう、胡散臭さしかなくなった。
「いやいや、それでどんな健康効果が……?」
「気のめぐりがよくなって健康になるかな!」
「いやいやいや?!」
「真面目な話ね。うちレベルになると、産業スパイとかによる物理攻撃もあるの。
例えばこないだの高速バスジャック。あれは、きみと社長を狙ってのものだった。
混乱を避けるためとかいろいろあって、対外的にはどっかのテロリストが偶然来て、勝手に仲間割れしてうんちゃらってことになってるけれど……」
シャサさんはふいに真面目な顔になる。
そうして聞かされたのは、まさかの事実。
俺が巻き込まれた、そして記憶をなくした事件の真相が、そんなものだったとは。というか、本当にあるのか、そんなことが。
正直、驚いた。と同時に、ひとつの懸念がわいてきた。
「あの、俺……今後、電車とか乗ってだいじょぶなんでしょうか?
そりゃ初日に一度、うちに戻ったりしてますけど……」
「ああ、それは大丈夫。
この辺一帯については、警察や消防と協力してしっかり見張ってるし……
遠出のときとかは届け出てくれれば、あたしたち警備セクションのメンツがテキトーに距離とって、さり気にガードしてるから。
あたしたち警備員は、最低でも一人で一個中隊――最新装備の軍人二百名程度は相手取れる。そこそこ規模の爆破テロでも仕掛けられなければ、おくれはとらない。
そしてもし、そんな事態になったら政府機関が黙ってない。そんなパワーバランスがあるからね」
「マジっすか……」
マジっすか。ここまでのケタの話をされてしまうと、一般ピープル代表の俺にはその五文字しか出てこない。
シャサさんもそこはわかっているようで、さらりと先を進めてくれた。
「話を戻すと、そのとき無事で済んだのは、社長が戦ってエージェントを撃退してくれたから。
そこまではできなくっても、護身術は最低、身につけておく必要があるよ。
サクっちは優しいから、目の前で誰か襲われたりしたら飛び出してっちゃうでしょ。そのときなんの心得もなかったら、バス事件のときの二の舞になっちゃう。
卑怯や暴力に屈しないため、最低限の力を持つのも、わたしたちが果たすべき義務だよ。
わかってくれる、サクっち?」
それを聞いて俺に、否はなかった。
* * * * *
「肩を楽にして、息を吸って……空気とチカラを背中から、おなかに。
ぜーんぶおへその下に集めるイメージで……ぐっと圧縮、そのまま打ち出す!」
「でやあ!!」
気合一閃。俺の掌から黄金の光球が飛び出す――豆電球みたいなちまいのが。
そいつはのこのこと空中を数センチ進むと、ぷちっという音を発してはじけて消えた。
いや、すごいとはいちおー、思う。だってクラスの誰も、あのサクだってはどーけんは使えなかった。それと比べればたしかに、雲泥の差では、ある。
ちなみに先ほど月とすっぽんな実力を見せ付けた当の本人はというと、俺の隣で悶絶している。
「うわっ、ほんとかっわいい……
いっそ萌え萌えシャボン玉攻撃で相手の戦意をそいだほうがいいのかも!」
「大の男が萌え萌えってどうなんスかそれ?!」
「いやいけるかもよ。サクっちかわいいし」
「どこが!」
「あれー、自覚ない?」
「あるもないも、俺人生で一度もモテたことないっスよ……年齢イコール彼女いない歴っスよ……ははは……は……」
あれっ、目の前が曇ってきたぞ。これが、青春の汗というやつか、な……?
「うそー!! え、じゃ、じゃあっ……」
「それ以上するとセクハラだぞ、シャサ。」
めしっとめり込む(もちろん俺の)後頭部。
振り向けば奴が、スーツ姿で立っていた。どうでもいいが、毎度毎度人の背後をとるのは癖なのだろうか。解せぬ。
「あれ、どうしたのしゃちょー。ぶちょー分が切れた?」
「そんな栄養素は存在しない。というより講座の終了時刻がとっくに過ぎているのだが。
スノーフレークスの件で、彼とアポがある。いいな」
「しゃちょー…… でも、あれは」
「いかなる理由があったとしても、あれはしていいことじゃない。
スノーフレークスの綿毛が不用意に外に出ることにでもなったら、大変なことになる」
「それは……。」




