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STEP0-0 夏の夜の夢
なみだをふいて、手をあわせていると、いつもの声がなまえをよんだ。
ふりかえらなくてもわかってた。そこにあるのは……
ずん、とふみしめたビーチサンダルの両足。ばんそうこうをはったひざこぞう。
ひやけしたげんこつ、まっ白なランニングシャツ。
夕日ですっかりあまなつ色の、ひよこちゃんぽいツンツンあたま。
となりのうちの、サクちゃんだ。
まいにち、話しかけてくるけれど、ぼくはうまく話せない。
だっていっつもおこってるみたいで、でも、おこってないっていうし。
いまだって、ほら。
『こんなとこでなにやってんだ? おばさんたちさがしてたぞ』
『……』
『おはかか? だれの?』
『……』
『なあ』
ぼくのまえにしゃがんだサクちゃんが、すっかりあまなつ色の目で、ぼくの目をのぞきこんできた。
長いまつげのかげをおとした、びっくりするほどきれいな目。
『……、さんの……』
そのときぽろり、こぼれだしてた。
とまったはずの、なみだといっしょに。
いえそうになかったはずの、ことばが。
まるで ふしぎなまほうに かかったみたいに……