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BLUE DREAM  作者: 時紐
5/8

本郷JAPAN、始動

 C県秋蛾市、Jセカンドのジョイユナイテッド千葉が拠点とするこの町にある秋蛾サッカー場に、新生日本代表の面々は集められていた。だが、当の選手たちは戸惑っていた。なぜなら、特に何も説明がされていないのにも関わらず、マリンチャレンジカップに向けての調整・練習の場として用意されたこの練習場に集められていたからだ。

(どうなってんだ、こりゃ)

 日本代表不動のキャプテンである駒場獅童も何も聞かされてはいなかった。日本代表に選ばれた旨を伝える電話があったのはいいが、その後協会からの連絡はなく、ただ本郷から直接SNSでこの場所のURLと朝5時という早すぎる集合時間が伝えられただけだった。他のメンバーも似たような連絡手段で呼ばれたのだろう。時間通りに来た誰もが戸惑いを隠しきれていなかった。更にその困惑を際立たせたのが、この場所に新生首脳陣が誰もいないことだった。

(普通誰かひとりくらいはいるだろ!誰もいねえってどういうことだよ!……ったくあの人何考えてんだ?)

 駒場は本郷と一緒にプレーした経験があった。10年前のことだ。当時Jファースト最強を誇った浦和レンディルにユースから昇格して入団した駒場は、プロ一年目を本郷と過ごしたと言っても過言ではなかった。プロ意識というもののすべてをチームの不動のボランチとして活躍していた本郷から教わったのだ。本郷が翌年に海外移籍をした後も交流を続けていた、いわば偉大な先輩なのだ。しかし、本郷が突如として現役のキャリアを終了し、監督になってからは疎遠となっていた。だからこそ、今回の代表監督就任は駒場としては嬉しいものだった。だが、疎遠ということもあってどういう風に接すればいいか分からない駒場はいつもの代表より少し緊張していた。

(こっちは結構緊張してきたってのに、ホント昔からあの人は勝手だよなあ)

 過去の本郷のことを思い出しながら、駒場は用意されていたサッカーボールを手に取り、リフティングを始めた。身体をあっためるつもりで始めたものだったが、それに呼応するように時間通りに集まっていた選手たちもなんとなく体を動かし始めた。



* * *



 身体もあったまり始めた頃、グラウンドのダッシュを始めた駒場の元に三人の選手が集まってきていた。

「駒場さん!!伊佐敷鹿慧っス!!よろしくお願いします!一緒に走ってもいいっすか!?」

「田村貫・・・です。よろしくお願いします・・・。僕も・・・いいっすか」

「お久しぶりです、駒さーん!え?この新橋樹のこと覚えてます?」

 集まってきたのは初招集の若手三人だった。川崎フロムテンでブレイクした大卒ルーキー伊佐敷、仙台で頭角を現しレンタルバックしたジュバン磐田でも活躍した田村、そしてドイツで駒場とも対戦したことのあるSVフライブルクのニューカマー新橋。彼らは他の初招集の選手達と違って、この場でお互いに知り合いでアップに付き合ってくれるものなどいなかった。この三人は世代別代表などにも縁なく育ってきたためというのも理由だ。他にも、伊佐敷は唯一の同僚がキーパーの大須賀で、勝手にGKで集まってしまったという理由もあった。

「あー、一気に喋るな。俺は聖徳太子じゃねえっての。とりあえず自己紹介しとくぜ。駒場獅童だ。よろしく」

「「「知ってます!よろしくお願いします!」」」

 三人が声を揃えて駒場に答える。その若々しい反応に少し圧倒されながらも、駒場は拠り所のなかったのであろう三人を率いて、彼らの話を聞くため緩いペースで内周を再開した。

「それで、なんで俺の所に来たんだよ。友達いないの?」

 駒場の問いに真っ先に答えたのは伊佐敷だ。どうやらこの男が一番明るく、よく喋る男らしい。

「いや!俺は大須賀さんと来たんスけど、あの人キーパーの皆さんの方に混じっちゃったんで一人になったんス!」

「あー、なるほどな。まあキーパーはアップからメニュー違うからね。田村くんは?」

 駒場が話を振ると、田村はゆっくりとしたペースで話し始めた。田村は中々にマイペースらしく、あまりペラペラと喋るタイプではなさそうである。

「僕は・・・・・・友達いません」

「ハハッ!はっきり言うねぇ。樹、お前はいくらでも友達作れんだろ。てか山田獲歩とかお前知り合いだろーがよ」

 最後に話を振られた新橋はどんぐり眼をぱちくりさせながら答えた。この新橋は面白いものが好きらしく、好奇心旺盛な男だ。いつも辺りをキョロキョロ見回して、面白いものがないか探している。

「んー、エルフさん僕のこと嫌いなんですよー。あの人クール気取っちゃってるタイプなんで、僕みたいにペラペラ話す人苦手なんですよねー。それにこっちの方が面白そうだし」

「あぁそうかい。お前らしいな。・・・ところで、お前らはこの状況についてどう思う?」

 駒場が次に質問したのは今この状況についてだった。新監督が現れず、コーチすらいない。そんな中で誰もリーダーシップを発揮して仕切ることも無く、知り合いとか友達同士でアップをしている。この状況をどう思っているのか、それを駒場は知りたかった。

 この問に最初に答えたのはやはり伊佐敷だった。

「変っスよ!監督もコーチも集合時間に来ねえし!集合時間クソ早いし!来てない人もいるし!めちゃくちゃバラバラじゃないスか!日本代表!」

 伊佐敷が不満をぶちまけると、それに続いたのは田村だ。田村は伊佐敷を諌めるような言葉を使った。

「・・・・・・吠えるだけなら誰でも出来る。でも、僕達は・・・吠える立場にすらない。・・・・・・僕らは外様・・・」

「うぐっ!でもよぉ田村!おかしいと思わねえか!?」

「おかしい・・・とは思う。でも、僕らには・・・何も出来ることない・・・、だから駒場さんのところに・・・来ました」

 どうやらこの二人は規律と秩序が乱れたこの状況に相当ご立腹だったようだ。言葉の節々から不満が溢れ出ている伊佐敷はともかく、田村でさえ何も出来ないことに悶々としていたようだ。駒場が二人の様子を見ていると、新橋の指摘が入った。

「てかてか、なんで駒さんが仕切らないんですか?ドイツ人でさえ支配下に置いてる駒さんらしくなくありません?」

「お前はほんとよく見てんな。そうだよ、俺はあえて何もしてねえ。ってよりかは出来ないって言う方が正しいな」

「え?」

「今回の代表の招集の時だ。本郷さんからプライベートのスマホの方に連絡が来てな。一日目の最初の集合の際、キャプテンとしての行動をしてはならないって送られてきたんだよ」

 三人ともが想像もしていなかった返答に驚きを隠せず、伊佐敷に至っては大声で「はぁっ!?」と声に出すほどだった。そこにタイミング良くグラウンドの扉が開いた。

「いやはや、遅くなってすまんな。おはよう諸君」

 入ってきたのは本郷だった。その後ろには美作、そしてコーチ陣の姿が見えた。集合時間の5時を30分ほど超えてようやく、本郷率いる新日本代表が始まろうとしていた。

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