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BLUE DREAM  作者: 時紐
4/8

前任者語る

 この日、東山はある病院の一室を訪れていた。本郷と美作が選出した27名の新日本代表選手たちが記載されたリストを持ち、東山が訪れたのは前任者が療養中の病室だ。

「竜堂さん、どうです?お身体の方は」

「あぁ、東山くん。監督をしていた時よりは随分とマシだよ。ストレスが大分と減ったからね」

 前任者、竜堂龍城は軽い冗談とともに東山を迎えてくれた。監督として指揮棒を振るっていた時よりも眉間のシワが取れて、柔和な表情になっていた。少しばかり痩せたせいなのか、監督時代よりも体のスケールは縮んだ気もするが、対面する相手を緊張させるようなピリピリとした存在感は現役時代と変わらない。そんな竜堂を前にして、東山も少し緊張していた。

「それで今日はどうしたんだ?君も忙しい身だろうに、こんな老兵の元へ何の用だい?」

 竜堂の疑問も尤もである。そう聞かれた東山は持ってきたリストを手渡した。

「これは本郷と美作さんが選んだ日本代表のリストです。竜堂監督は一番に見たいと思いまして、リストができてからすぐに持ってきちゃいましたよ」

「ほお。そろそろ選出される頃だと思っていたが、中々早いね。公表するのはいつなんだい?」

「公表は翌週の月曜日の予定です。水曜日には選手全員を集合させ、キャンプに出発。中三日でUAE、ヨルダン、そしてオランダと対戦する予定です」

「ふむ、仮想イランとカタール、そして欧州勢への試金石オランダといったところかな。」

「ええ、その通りです」

 竜堂の言うとおり、今回のマリンチャレンジカップで戦うUAEとヨルダンは最終予選でぶつかる四か国のうちの二つ、イランとカタールによく似たタイプのチームだ。伝統的に堅守速攻を誇るイラン、そしてそのイランをモデルタイプにしたUAE。そして、強力なストライカー頼りのカウンターが武器のカタールとヨルダン。最終予選でぶつかるだけに国際親善試合として戦うことはできないが、この国々とよく似たタイプの代表チームと戦うことはできる。そのため、JFAはこの二国を選んだのだった。

 そしてIFA(国際サッカー連盟)ランク13位の強豪国オランダ。この試合は正に強豪ひしめく欧州と今の日本代表との距離を測るための試金石だ。オランダの名門アヤックスFCの象徴ファン・リステンを筆頭に、イングランドプレミアリーグのマンチェスター・ブルーエンジェルス所属の天才ドリブラー、デ・リフトなど著名選手を多く輩出している。この強敵相手に新生日本代表がどこまで戦えるのか、注目度は一層高くなるだろう。



「さて、ではそろそろ拝見させていただこうかな。本郷くんと美作くんの考えた日本代表選手の面々を」

「ええどうぞ。面白い面子ばかりですよ」

 ある程度今後のことを聞き終えた竜堂はついに日本代表リストを開封し、その内容に目を通した。今一度、そのリストのポジション、背番号、名前のみを記載する。星の付いている選手は初選出である。



 GK  1 小島 守雄

 GK 12 川崎 信吾

 GK 21 大須賀 大介 ☆

 DF  2 阿形 桂

 DF  3 小貫 太一

 DF  4 山田 風太

 DF  5 甲坂 勝繁

 DF 15 加茂 信二

 DF 17 加藤 紀明  ☆

 DF 22 四木 和喜

 DF 26 伊藤 雄二  ☆

 MF  6 駒場 獅童

 MF  7 遠藤 水月

 MF 10 白鳥 匠

 MF 13 伊川 徹   ☆

 MF 16 新橋 樹   ☆

 MF 20 雅 佑介

 FW  8 石川 瑞樹  ☆

 FW  9 五島 大吾

 FW 11 月火野 景

 FW 14 橋本 亜烈楠 ☆

 FW 18 高崎 健吾

 FW 19 伊佐敷 鹿慧 ☆

 FW 23 田村 貫   ☆

 FW 24 山田 獲歩  ☆

 FW 25 小宮山 正輝 ☆

 FW 27 華垣 竜   ☆



 一通り目を通した後、竜堂はほぅとため息をついてから東山と話し始めた。

「いやはや、面白いね。本郷くんと美作くんの目の付け所というものは」

「ええ、僕もそう思いますよ。竜堂さんの考えとしてはどの点が面白いと思いましたか?」

 これは東山が竜堂に一番に聞きたかった質問である。前日本代表監督が本郷と美作の選出に関して、どのような感想を持ったのか、そこが東山の最も気になることだった。この東山の問いに竜堂はこう答えた。

「そうだね、うむ。やはり前線の強化が目立つ。今までは1トップを起用していたから、センターフォワードの月火野・五島、そこに一人FWを呼んでお試しで起用というのが私の選出だった。けど今回はおそらく3トップ、もしくは2トップといった風に様々なフォーメーションを試したいという気持ちが前に出てるようで面白いね。10人のFWのうち、真ん中以外を専門としているのが半数を占めている事実がそれを如実に表している」

「確かに。FWの多さは目立ちますね。特に注目したい選手とかはいます?」

「うん、若手の石川、橋本、伊佐敷、田村、山田。それと華垣だね。私が選出しなかった選手ばかりだ」

 竜堂の挙げた6人の名前をメモに取り、後でもっと選手を詳しく調べておこうと考える東山。彼の旺盛な知識欲がその早い出世の原動力とも言える。

「なるほど、理由も教えていただけると勉強になります!」

「ふっ、君は本当に勉強熱心だな。そうだな、石川と伊佐敷、それに橋本は私も注目していたウィングなんだ。スペインのカンテラ仕込みのテクニックを持つ石川は仙台で存在感を増してきていたし、伊佐敷は川崎の初タイトルに大貢献した。橋本はブラジルからの帰化選手、呼ばない手はないと思っていた。実は倒れる直前くらいに3トップという新しい風を吹かせたいという意志があったんだ。それで今まで見てこなかったより攻撃的なウィング選手に注目してみた。まあ呼ぶより前に私の方が倒れてしまったわけだが。本郷くんが選んでくれてよかった。彼らの若い才能は本郷くんの代表に必要だ。

 山田獲歩は逆に全く知らなかった選手だね。もちろん存在は知っていた。ドイツのユースチームで便利屋として活躍する日本国籍のアタッカーがいると。ただ、私の中では浦和の柏の方が序列がやや上回った。本郷くんと美作くんにとっては違うんだろう。だからこそ彼をどう生かすのか楽しみでもある。

 最後に華垣選手についてはようやくといった感じだね」

 ここで今まで黙って聞いていた東山が口を開いた。

「竜堂監督が最後まで選出を悩んでいた選手ですよね。華垣竜。世代別代表に何度も選ばれながら、怪我に泣かされ、本大会で活躍できずにいたガラスのエース」

「ああ、私も何度か呼ぶか迷った時期があった。一度選出して、代表発表の時に怪我で離脱と聞いた時もあったな。そうか、彼がついに選ばれたか」

 竜堂はなつかしそうな顔で一人の選手を思い出していた。

 華垣竜。ヴィリジス東京ユース育ちのFWで、彼らの言うとおり、何度も世代別代表のエースとして予選大会を戦いながらも、本大会前に悲劇の負傷離脱で代表を離れるという運に恵まれなかったストライカーである。育成年代からV東京一筋で、エースとして10番を背負っている。二部落ちしていた時期にプロ昇格し、彼の活躍でV東京をJファーストに復活させた。V東京サポーターからしてみれば、ようやくの代表選出なのである。いや、V東京サポーターだけでなく、日本代表サポーターたちも華垣について何度も話題に上げてきた。勝てない時には華垣が必要だとか、どうせまた怪我をするだとか、とにもかくにも日本国内での人気は相当なものだ。

 そんな華垣を注目していたのは無論サポーターたちだけではない。日本代表監督たる竜堂でさえ彼の魅力に囚われていた一人であった。何度も代表候補に選出してはその度怪我で招集外となるのがいつもの流れとして定着していた。

「今回こそは活躍して欲しいですね」

「ああ、本郷JAPANでの彼の活躍に期待するよ」

 この後も日本代表のことについてや、欧州のサッカー事情についての談義を楽しんだ2人。1時間程したあと、東山は仕事に戻ると言って病室をあとにした。

 一人になった竜堂は東山の残していったリストをもう一度目にし、「頑張れよ、本郷くん」と呟いた。

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