絆
皆が今日の菊之助の料理を褒める。
「やっぱり世話係の料理はうめぇーな」「うめぇーね」
「菊ちゃんホント美味しいよ」
かなめも褒める。
「褒められてるのに、天志の一言で嬉しくねぇんだけど」
菊之助は自分の料理を褒められてまんざらでもない顔をしている。
「菊ちゃん今度リンにもご馳走してね」
「おう任せなリンちゃん、なんか俺、料理得意みたいだわ」
菊之助の料理話しで盛り上がっていた時、咲が言った。
「ねぇ悪魔さん、私ここから抜けるわ」
皆が話すのをやめ、菊之助が咲に聞き返す
「咲なんて言ったんだ?」
「私ここから抜けるわ」
いきなりの言葉に皆驚きを隠せない、だが天志だけは違った。
「そっか、咲いねぇと大変になるな」
「おい咲いきなり何言ってんだよ、天志も止めろっ、何納得してんだよ」
菊之助が取り乱す。
「なんでだよ、咲が決めたことだろ、なら仕方ねぇじゃねぇか、そりゃ俺だって一緒にいてぇけど、周りに流されて一緒に居る必要なんてねぇと思うぞ、これからもっと危険になるかもしれねぇんだ、自分のことくれぇ自分で決めねぇと、この先怪我したら、ホントは来たくなかったのにとか、誰々が言ったからとか人のせいにするのか、俺はそんなのヤダ、だから自分で決める、菊は咲引き留めて、この先咲に何かあったら責任とれるのか?」
「そ、それは」
「仲良しごっこじゃねぇんだ、俺は皆と居るの楽しいし皆の事は好きだけどよ、でも、どうするかは自分で決めた方がいいと思うぞ」
「でも俺は・・・」
菊之助が言葉に詰まる。
「悪魔さんは了承してくれるのかしら?」
「うん、縛り付けたりはしないよ、リンと居ることは強制じゃないからね、手を貸してほしいってのはあるし、咲ちゃんと一緒に居たいのもあるけど、一緒に居ればそれだけで危険になるかもしれない、咲ちゃんも色々考えてるみたいだし、それにリンの目的の一つは、天に戻って、皆と一緒に巻き込んじゃった人達を探すことだから、折角助けられた咲ちゃん達がまた死んじゃったら、リンがこれからしようとしてることは意味がなくなっちゃう、もう皆を巻き込んじゃってるけど、この先どうするかは皆自分で決めて」
「それは皆いなくなっても構わないと言うこと? 悪魔さん一人になったらどうするのかしら? 」
「皆いなくなるのは寂しいし心細いけど、それは仕方ないよ、リンは一人でもやるよ、それがリンの使命だから」
「咲ねぇ」
かなめが寂しそうだ。
「咲、俺は咲と一緒だ、お前が抜けるなら俺もぬ」
「ごめんなさい冗談よ、抜ける気はないわ、悪魔さんが戦いを強要したり、私を抜けさせないとか言ったら、考えたかもしれない、でも今の言葉で悪魔さん、いいえリン、あなたを信じて私もリンに力を貸すわ、試すようなことを言って、本当にごめんなさいね」
咲も色々考えていたようだ、リンに自分がこの世界の住人だと言われて、死ぬ前の自分は何をしていたのか、自分を知る人はいるのか、家族は友人は恋人はいたのか、その人達は何をしていて、今私をどう思っているのか、考えれば考えるほど、わからなくなった。
そして、リンと居ることは死と隣り合わせだと言うこと、自分が命を懸けられるだけの理由が欲しい、ずっとそう思ってきた、だが真実を知った時、なぜ自分がここにいるのか、いなくてはならないのか、コレは強制されたモノなのか、自分が抜けると言ったら抜けられるのか、それを聞いてみたかった、リンの言葉で手を貸す、手を貸したいとは思った、だが、まだ自分の命は懸けられないとも思った。
咲はそんな自分の考えをリンに話した。
だが自分の意志で手を貸すことを決めた、決めたかった、それは咲にとってのけじめの様なモノだった。
リンは咲が協力をしてくれることに感謝し、ありがとうと言った、そして皆の家族はどうしているのかはわからないと、自分が巻き込んだのは16人、元から家族がいたのなら今もいるはずだと、リンが言えるのはそこまでだと言った。
ただ一つわかったことがあるとリンは言った、それは天志の事だった。
「テンテンの家族は確実に生きてるし、どこの誰かわかるよ」
「はっ! お前俺のこと知ってたのかよ」
「テンテンの事は直接は知らないよ、それと知ってたって言うか、わかったって言う方が正しいかな、知りたい? テンテンの家族の事」
「俺の家族? 別に今は聞かなくていい、俺は皆と一緒のままでいいや」
「そっか、何かそう言うと思ってたけどね」
「なんでだよ」
「何となくね」
リンは天志の家族を知っていた、だが天志は知ろうとしなかった、皆に合わせたわけじゃない、皆と同じが天志は良かっただけだ。
「で、菊はどうすんだ? 抜けんのか? それともこのまま世話係続けんのか」
「抜けねぇよ、俺は咲と一緒、運命共同体って奴だ、それと天志、俺は世話係じゃねぇ」
「菊と運命を共にする気はないわ、でも世話係はよろしくね」
「任せろ咲」
世話係でも菊之助は嬉しそうだ。
咲が自分の思いを言って、自分自身でリンと、皆と一緒に居ると答えを出した、少し絆が深まった夜だった、明日にはラムールに到着する、天志達は眠りについた。
天志達が眠りにつこうとしていた時、ラムールの一軒の酒場に女はいた。
「姐さん是非明日もお願いしますね」
「ちゃんと酒飲ませろよ」
「わかってますよ、大抵のクエストは姐さん一人でこなしちまう、酒代くらい安いもんですよ」
今噂の極上の女、知らぬ間に極女とあだ名がついた、極上と極道の意味合いを持つようだ、そして女は腕も立つので用心棒的に雇われていた、報酬は酒代と宿代、それだけだ。
「これでいい男が居れば言うことナシなんだけどな、マジここら辺の男はクソだ、クソしかいねぇどうなってんだ」
誰が見ても綺麗と言うより、美しい女、初めて酒場に顔を出した時は、男共が群がった、だが今女の回りに男は一人もいない、そして女とすれ違う男は皆、直立不動で丁寧に頭を下げている、何故だ? それは女が初めて酒場に来た時、群がる男共に一つ条件を出したことから始まった。
女は酒場の男達に、一晩共にする条件で自分より強い奴、そう条件を付けた。
男共は挙って名乗りを上げた、その全てを女は返り討ちにした、今女に挑戦する男は一人もいない。
女は金もないので仕方なく、ギルド登録をし、クエストで一日警護のクエストを受けた、報酬はそこそこよかったが、酒代には足りなかった、女は酒場で見せた腕前で、強いことは知られていた、それなら誰かの用心棒、自分を大酒飲みだと知らない者の用心棒をしようと考えた。
報酬は酒代と宿代、依頼は次々舞い込んだ、どんなクエストも一人でこなす、女の評判はいい、だがリピーターは一人もいない、それは酒代が高すぎるからだ、今日の依頼人も次はないだろう。
住みにくくなってきたな、いい男もいねぇし場所変えるか、女はそんなことを考えていた。
よしっ、今日は飲み溜めしとくか、そして明日は馬車で移動だ、いや、明日も飲み溜めして明後日だな、女はその日また、店の酒を空にする。




