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忍下の男

 

天志達は、前回水の国へと運んでくれたティーチの船で、火の国レッカへと向かっていた。


 火の国へと向かう海流は、大小様々な人為的に作られた柱により、複雑な流れをしている、なぜそのような柱が作られたのか? それは不法入国させない為と国から外に許可なく出国させない為である、海に刺さった柱は複雑な海流を生み出し、船を強制的に押し流す、船で行きつく場所はただ一つ、又船で国から出航出来るのもその場所のみとなる。


 それが火の国への上陸を厳しく取り締まる者達が拠点とする町、門前町モンゼンチョウだ、別名忍びの里とも呼ばれるその町は、一つの町でありながら一国にも匹敵する戦力と言われている。


 その者達こそが忍火連である、忍火連は他の国で言う、騎士団であり、国冒であり、冒険者でもある、他の国から見れば異質の存在だ、この火の国は他の国とは違い、国冒を持たない、ギルドだけは存在するが、冒険者にクエストなどの依頼もほとんど出る事はない、国の全ての問題を、忍火連の者達だけで請け負っている。


 その忍火連は、火の国の者のみで構成され、他の国の者達が冒険者になるように、火の国では多くの者が忍火連へと所属する、ただし忍火連を名乗れる者は少なく、数字の呼び名を与えられた者達、100数名だけが忍火連と名乗れる者達だ。


 数字の呼び名を与えられる事は、この火の国では栄誉であり、忍火連を名乗る事は、この国の者の憧れである、中には何とも思わない者も居る様だが、そのような者は極少数だ。


 そして数字を持たぬ者達は忍下ニンカと呼ばれるのだが、それは火の国の中だけの様で、他の国では一括りに忍火連と呼ばれている。


 その忍火連を現在まとめているのが、美能凱だ、立場的には頭補佐、忍火連のナンバー2になるが、凱を慕う者は多く、どこで何をしているかわからない現頭よりも、凱を支持する者は多い、と言うより皆が凱を支持している。


 

 そんな火の国へと今、天志達は上陸しようとしていた。


「キャプテンレム、もう舵が利かないみたいですわ」


 火の国へと向かう海流に乗り、船が言う事をきかなくなった事を、ティーチがレムに報告する。


「らしいですがどうします? ヒースさん」


「最初からここしか通れないんだ、そのままでいいさ」


「って事だティーチ、帆を畳んでこのまま火の国へ向かってくれ」


「了解」


 天志達を乗せた船は海流に乗り、前後左右関係なく火の国へと流されていく。


「スゲーなリン、船が勝手に動いてるぞ」


「そうだねテンテン、この海流は一度乗っちゃうと、もうどうしようもないからね」


「リンちゃん、どの位でつく? 俺、もうダメ、だ・・・」


 海流に乗った瞬間、先程までも真っ青だった菊之助の顔が、更に青くなった。


「あと少しだよ、頑張ってね菊ちゃん」


「リン、菊もう聞こえてねぇからほっといていいぞ」


「そうみたいだねテンテン」 


リンの返事を待たずして、菊之助はその場に倒れこんだが、ただの船酔いだと、誰も心配していない様子だ。



 菊之助が倒れてから一時間ほどで、天志達の乗った船は大きな門へと到着した。


 ここが出入国を取り締まる、いや火の国全てを取り締まる者達、忍火連が主に滞在する町、門前町だ。


 天志達の乗った船は海流に流されてきたが、大きな門の前までくるとピタリと止まった。


 そして大きな門に着いている小窓が一つ開き、黒ずくめの男が声をかけてきた。


「おい海賊、ここは貴様達が来るような場所ではない、どうせ海流に捕まった三流以下の海賊だろうが、すぐに立ち去れ、面倒だが海流を変えてやるから、7秒以内に消えな、それ以上居たら沈めるからな」


 天志達の乗って来た船は海賊船だ、ただでさえ出入国に厳しい火の国で、海賊が簡単に入国させてもらえるはずはない、門前払いに会うのは当然の事と言えた。


 天志達に忠告をした男が小窓を閉め、海流を変える為移動しようとした時、リンが黒ずくめの男に声をかける。


「ちょっとだけいい?」


 小窓を閉めかけた手が止まり、閉じかけた小窓が再び開く。


「何だ女、本当に沈めるぞ」


「ごめんねちょっとだけだから、で、君何番? 」


「何だいきなり」


「リン達入国したいんだよね、だから今居る一番偉い人呼んで欲しいんだ」


「はっ? 海賊風情が入国したいだと、笑わせるな」


「リン達は海賊じゃないよ、送ってもらっただけだもん」


「海賊が送ってくる者に、ろくな奴がいるわけがないだろ」

 

 男は呆れた様子で返事を返す。 


「うーん、怪しいのはわかるけど、だから上の人呼んできてよ、そうすれば話ははやいからさ」


「どこの誰かもわからぬ者に、わかりましたという訳がないだろうがっ」


 リンとのやり取りに少しイラ立ってきたのか、黒ずくめの男の語尾が強くなる。


「えーー、それじゃ困るんだよー」

 どうしよ、もうこの人にテンテンの事言おうかな。


 リンの困った顔を見て、リンと黒ずくめの男とのやり取りを黙って聞いていたヒースが口を挟む。


「なぁ門番さん、俺はヒース・アレサンドロだ、悪いが上の人を呼んでくれ」

 ダ・スルームは天志の事をまだ言いたくないようだ、なら俺が話した方が早いよな。


「ヒース! ヒース・アレサンドロだと! 」


 男はヒースの名前に驚いた様子だが、まだヒースが本物かどうか怪しんでいる様子だ。


「門番さんじゃ俺の顔見ても本人かわかんねぇだろ、だからもっと番号の若い奴呼んでくれよ」


「だっ、だがしかし・・・」

 どうしたらいい? 海賊くらい追い払えないと、俺はこの先番号すらもらえないかもしれない、だがあの頬の傷、本物だった場合もっとヤバい事になるかも、どうする? せっかく国の非常時で、人手不足って事で忍下の俺に回って来た門警備の仕事、へましたら一生忍下かもしれねぇ、どうする? どうする? 考えろ、考えるんだ珍八チンハチ


 この黒ずくめの男の名前は珍八チンハチ、いつか忍火連になる事を夢見る駆け出し忍下である。


「なぁ門番さん、あんた額当してねぇな、もしかして忍下か?」


「なっ! お前には関係ないことだ」

 忍下の事を知ってやがる、国外の奴はほとんど忍下の事なんて知らねぇのに、まさか本物か。


 そんな駆け出し忍下の珍八に声をかける者がいた。


「どうしたチンパチ? 何か問題か? 」


「あ! これは京様、すみませんちょっと海賊がごねてまして」


「海賊? 何だ迷子か?」


 凱の所から戻った螢が、慌てた様子の珍八に声をかける、そして珍八が覗いてる小窓の隣の小窓を開き、顔を出し声をかける。


「こんにちわ、海賊さん」


 



 


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