四回目の休日
『街に行きたいです』
修理が終わって裂けた腹も記憶も元どおりになったアルラが、起動直後にそう言った。
あまりに唐突な希望に、俺は一瞬たじろぐ。
「……それは、なぜそう思うんだ?」
アルラは不思議そうに首を傾げてこちらを見る。その度に、金色の絹糸のような髪がさらさらと肩に流れた。
『博士は、いつも、なぜ、と仰いますね』
そりゃ不思議だからな。アルラのペースに巻き込まれて出かかった言葉を飲み込んで、俺は返答を探した。
「そりゃ、お前の心の動きと原因を把握するのが、俺の仕事だからだろう」
その言葉を聞いたアルラのカチューシャの色は、ニュートラルな緑色から、少しずつ黄色味を帯びてきた。喜んでいるのかと思いきや、その黄色は徐々に赤色に変貌を遂げていく。
『ずっと博士は私の気持ちを、仕事というだけで聞いてたんですか』
「他に何がある」
『……そう。それなら、もう何も教えてあげません』
これはもしや、実験中以外でははじめて、カチューシャが怒りを示す赤色を観測したのではないか。
記録をつけようと慌ててルーズリーフとペンを取り出すと、そんな俺を見てアルラのカチューシャの赤色はますます濃さを増していった。表情筋があればどうなっていたことか、これは私にすら予想がつかない。娘の怒った顔なんて、見たことがなかったからな。
「……街に行くか」
『いいんですか?』
「ああ、次の実験が終わったら、行ってみよう」
黄色いカチューシャが金色の髪に紛れ込むと、まるでアルラはただの人間の子どものように見える。
笑った娘の顔は、こんなにも簡単に思い出せるのに。