四回目の実験
こんなものは、本当は誰のためにもならない実験なのだと、分かりきっている。だが、俺はもう偽善に取り憑かれたりなどはしたくなかった。
かつて、いずれは人のためになるはずだと躍起になって研究した結果、俺は被験体を殺した。本人が合意していたこともあり、その一件は事故として片付けられたが、あれは俺が犯した殺人なのだ。
たとえ神が俺を赦そうと、俺は俺を永遠に赦さない。
管のついた柔らかい形状のマスクを、アルラの口に嵌めて、タンクから黒い液体を流し込む。窒息しない程度に液状にした栄養剤は、見た目はとてもそんな優しげなシロモノには見えなかった。
アルラは椅子に縛り付けられた手足を痙攣させ、腹部が異物を押し出すような動きをしている。
俺は淡々とビデオカメラを回す。
タンクから流し込まれる液体に混じって、黄色い液体が見え隠れする。きっとこれは、強制的に液体を胃に入れ続けられているアルラが吐き戻した胃液の一部だろう。逆流しないようにピッタリと貼り付いたマスクは、アルラ自身が吐き出した物で、アルラをさらに苦しめて行く。
ビデオカメラは回る。
アルラが小刻みに震え出したのを見て、途中で俺は研究員に声をかけた。吐き止め剤を打ち込んで、さらに研究は続く。そして数十分かけて、実験は終わりを遂げた。
アルラは、内臓が破裂して絶命した。腹の組織が裂けて、皮膚が千切れ飛び、弾けるように中身が流れ出る。
どこにこんな量が入っていたんだ、と言いたくなるような量の液体が床にびちゃびちゃと跳ね飛んでいるのを見て、研究員の一人が気持ち悪そうに口元を抑える。
これは、私が犯した殺人だ。
そのことを忘れないためだけに、私は今日も、娘によく似た顔のアンドロイドを殺している。