三回目の休日
なぜ俺がこんなことを。
そう思いながらも、スタッフの一部から勧められ、あのアンドロイドの食事を部屋に届けに行くことになってしまった。たかが被験体との「心の交流」など、本当にくだらない。
まだカップの隅に泡のついたオイルスープを見て、先日の実験を思い出す。少し気分が悪くなるが、今日は幻聴は聞こえない。
大丈夫、私は狂ってなどはいないのだ。
「おい、食事を持ってきたぞ」
『ありがとうございます』
ノックをしてから10秒と経たずに、アルラが出てきた。彼女は食事の乗ったトレーを受け取ると、危なっかしい動作でそれを室内のテーブルに置いた。
テーブルの横の椅子に座ると、アルラはスプーンを手に取らずにこちらを向いた。青色のランプが薄く点灯している。何を悲しむことがあったんだろうか。
『博士、私とニンゲンは、どうして一緒に食事をしてはいけないのですか。どうして食事の時間がずれているのですか?』
突拍子もない問いかけに、一瞬たじろいだ。そんなこと、考えたこともなかった。ニンゲンとアンドロイドの違いなんて、替えが聞くかどうかだけではないのか?
以前その言葉でアルラを怒らせたことを思い出した俺は、出かかった言葉を飲み込んで模範解答を探す。
「そりゃ、情が湧くと困るからじゃないのか?」
以前研究員の誰だかが言っていたことだ。そいつは結局、研究内容に耐えきれずに辞めていった。仕方のないことだ。人間には、向き不向きがある。アンドロイドに、何の用途に作られたかがあるのと同じように。
心など、所詮は電気信号に過ぎない。それを思うと、人間もアンドロイドも、用途が違うだけのただのガラクタだ。だとしたら、悲鳴も上げずに死んで行ったあの「被験体」は一体何のために生まれてきたんだ?
軽いめまいを覚えた俺は、アルラの向かいにあったパイプ椅子に腰掛ける。
『博士も、私に情が湧きそうになったことがありますか?』
アルラが俺を見上げながら問いかける。
「それを聞いてどうする。」
『もしそうなら、私は喜びます。』
アルラのその言葉と同時に、黄色かったカチューシャがまた異常点滅を起こす。
おかしい、あの異常の原因は、アルラの記憶から消去したはずなのに。
俺はため息を一つつく。アルラの昼食のオイルスープは、もう冷めきっていた。
「さあ、はやく飲め。それを飲んだらメンテナンスの時間だ」
『はい、博士』
ああ、点滅がうるさい。