二回目の休日
どうやらこのアンドロイドは、実験のない自由な日は毎日私の部屋に押しかけることにしたらしい。他に娯楽がないのだから仕方がないといえばないのだが、私にだって実験以外の事務仕事が溜まっている。一言で言えば、迷惑、というものだ。
『博士』
「ん」
なんだ?と答えることすら煩わしく、書類から目を上げずに、適当な返事を返す。
『今日はいちごオレじゃないんですね』
「ん」
『それ、自販機の新発売のミルクティーですよね、河村さんから聞きました』
「おう」
河村といえば、薬剤師だったか?確か本部の人間ではなかっただろうか。どうでもいいことを考えながら、目は書類から外さずに、俺はアルラの雑談を適当に聞き流していた。
『あなたは優しい人ですね』
世間話を無視していたつもりだった俺は、思いがけない言葉に驚く。顔を上げると、アルラのカチューシャは黄色く点滅していた。
表情は相変わらず変わらないため、アルラと会話するときの俺は、ほとんどカチューシャしか見ていない。まるで、カチューシャと会話しているようだ。だんだん点滅が早くなる黄色は、嬉しい、楽しい、を示している。表情筋があれば、こいつは一体どんな顔をするのだろうか?
「何が優しいんだ。お前は知らないだけだ」
違う。正しくは、“覚えていない”だ。
『だって博士は、私の感情を認めてくれる、察してくれる』
「そりゃ作った本人だからな、お前に心があることはちゃんと知っているさ。それに、そういう装置をつけているんだ」
能天気なアルラの言葉に苛立ちがつのった俺は、ぶっきらぼうに答えて、再び書類に視線を落とした。
何がおかしいのか、アルラはふふっと、人間の笑い声を模した合成音声を発した。ちらりと見ると、アルラのカチューシャの色は、黄色、緑、黄色赤色青色赤色黄色緑色黒色赤色黄色赤色青色赤色黄色緑色黒色赤色黄色赤色青色赤色黄色緑色黒色赤色黄色……
「!」
『どうしました、博士』
異常点滅を示すアルラからは、自身のリボンのカチューシャは見えていない。俺は立ち上がると、不思議そうな顔をしてこちらを向くアルラの腕をつかんだ。
「すまないが、これからメンテナンスだ」
廊下を歩く二人分の靴音が、やけに大きく響いていた。