二回目の実験
不老不死なんかろくなものではない。死んでも替えの効く体のこいつが今受けていることを考えれば、そんなことは明白だ。どうしてかつての私は、そんなこともわからなかったのだろうか。
前回の実験の記憶を消されてきょとんとしたアルラが、今日はどうしてこんなに人が集まっているんですか、と俺に尋ねた。その前には、いろいろな装置が付属したアクリルの大きな水槽が置かれている。
『水族館、私、知っています。もしかして、みんなであれを作るのですか?』
アルラはカチューシャを黄色くピカピカ光らせながら、首を傾げて水槽を見る。金色の髪が揺れるたびに、研究室内の蛍光灯が反射してきらきらと光る。こんなにも薄汚い人間の世界で、代替品がある天使のようなこのアンドロイドは、またしても人間側の薄汚い都合で何度も何度も殺されるのだ。
何も言わない俺や研究員を訝しんで、アルラはこちらを見た。
「博士、ビデオカメラセッティング終了しました!」
少し離れた位置にいる研究員が手を上げて声をかけるのと同時に、実験室の重たい扉が開いて、カートに乗せられた大型の実験器具が持ち込まれた。
『……檻? 博士、水族館には檻はなかった、と思いますが』
「そりゃあ、水族館を作るわけじゃないからな」
俺が片手を上げると、控えていた研究員達が駆け寄ってきて、アルラを羽交い締めにする。小さな悲鳴をあげたアルラは、意味がわからないといった様子でこちらを見る。カチューシャの色は、青黒い。
「入れろ」
俺の合図を聞いた研究員たちが、アルラを檻に引きずり込み、施錠する。何の汚れかもわからないようなものが染み込んで錆びついた扉をがたがたと揺さぶって、施錠の確認を済ませる。
『は、はかせ』
前回の実験の記憶を消されているアルラが、不安げにこちらを見る。カチューシャの色は、どんどんどす黒く染まっていく。表情筋のない彼女の恐怖が、伝わってくる。
「これより、第二回目の実験を始める。私は被験体を水責めにし、その反応や絶命までの時間など、全ての経過を記録する」
『いやだ博士、やめて、やめて』
「大丈夫だ、壊れたら俺が直す」
涙さえ出せず、替えが効くばかりにこんな扱いを受けているお前は、本当に幸せなのか? 聞けない問いを飲み込んで、俺は実験を始めた。