最後の休日
俺と研究員達は会議の末、アルラを孤児院に預けることと、アルラに表情筋を実装することを決めた。
調整のため、研究員総出で、一緒に笑う練習をした。面倒がって一度は断った俺も、本部の人間とアルラ本人の切望で、参加することになってしまった。アルラを笑わせようとして、美味しいご飯を作ったり、一緒に出かけたり、プレゼントをしたりするのだ。
そんな馬鹿みたいに平和な1ヶ月間が過ぎた後、アルラは普通の人間の少女と遜色のないぐらいに、自然体で表情豊かなアンドロイドに変貌した。
最後の調整が終わったあと、研究所でのアルラの全ての記憶を消すことになっている。孤児院に預ける際に、「記憶喪失の孤児」ということにした方が、都合が良いからだ。
「博士、メンテナンスが終わりましたら、郵送の準備を」
「ああ、分かっている」
研究員は一言だけ声をかけると、俺に気を遣ってか、研究室を出ていった。残されたのは、俺と、システムを落として眠っているアルラだけだ。
初めての実験の前日のように、俺は横たわるアルラに歩み寄る。しかし今度のそれは、興味からでも、暇つぶしからでもなく、電源を入れることはついぞなかった。
「アルラ、お前なら、大丈夫だ」
眠るアルラの額にキスをする。
「さようなら。どうか、幸せに生きてくれ」
アルラは目を閉じたまま、涙をこぼした。表情を変える機能は、不具合なく働いているようだ。
一体どんな夢を見ているのだろうか。涙を流すってのは、どんな気持ちなんだろうな。
最近は毎日のように異常点滅が喧しかったから、脳波を感知するあのカチューシャなんかは、とっくに外してしまっていた。
人としての機能がポンコツな俺は、あのような機械に頼らなければ、「人」の心すらも分からないのだ。
俺は、あのネックレスはかけたまま、孤児院行きのトラックに、電源を落としたアルラを積み込んだ。
アルラちゃんが幸せに過ごしているパートは、あえて描写しません。
皆様のご想像にお任せさせていただきます。