最後の実験
年々過激化していくアンドロイドの権利保護団体から苦情が来たため、不毛な実験はようやくこれで最後になった。これまでにも苦情は大量に寄せられていたのだが、署名活動までされてしまっては、いくら政府管轄の研究機関とはいえ太刀打ちできるものではない。
最後の実験では、これまでのすべての実験の際の記憶のバックアップから、刺激の信号だけをいっぺんに脳にロードする。要は、痛みや苦しみの信号だけを一気に受け取った脳はどうなってしまうのか、それを調べるのだ。
職を失う研究員たちの腹いせのようなその実験にも抵抗することなく応じたアルラは、実験室に入る前に、俺の方を一目だけ見た。
機材のセッティングの後、実験が始まる。
アルラはのたうちまわってうめきながら、カチューシャを様々な色にころころと変えていく。
そのあと、狂ったようなけたたましい異常点滅。……情愛を示すはずのその点滅は、ついに心が壊れた証と見ていいものか、否か。先日の会話を思い出した俺には、なんと記録をつけて良いものか、少しだけ迷った。
実験を始めてから、48分21秒。
俺は記録をつけながら、なおも異常点滅を続ける彼女に歩み寄った。
「う、あ、博士、はかせ、なかないで」
その言葉を最後に、実験は終わった。アルラが絶命し、システムがシャットダウンされたのだ。
アルラの言葉を聞いて、ふと自分の頬に手を当ててみる。それは、泣いた後とは到底思えないほどに、乾ききっていた。
「本当にバカだな……」
意識を失ったアルラを抱きしめて、目を瞑る。少しだけ、目頭にあたたかいものが染み出したような気がした。
無償の愛など、手に入れたところで何の役にも立たない。
なのにどうして、俺はこんなに、救われたような気持ちになっているんだ。