九回目の休日
『どうして博士は、私を殺すんですか?』
アルラはいつも、唐突な問いかけをしてくる。
「研究員の誰かに聞いたのか?」
『噂話を聞きました。次の私への実験のことも、……博士の娘さんのことも』
そろそろ、アルラの耳に入ってもおかしくない頃だとは思っていた。俺の娘への執着と、実験の不手際は、それはそれは騒ぎ立てられているようだったからな。
「そりゃ、仕事だから殺してるんだよ」
『つまらない回答ですね』
「お前な……じゃあ、どうしてお前は、黙って俺に殺されるんですか?」
どういうオモシロ回答を望んで聞いてるんだよ、と文句を言いかけた口を閉じて、皮肉で返す。子ども相手に、どうして俺はこんなにムキになっているんだろうか。
俺の問いに、アルラは考え込むことすらせず、むしろ「なぜ分からないのか」とでも言いたげに小首を傾げて、一言だけ言った。
『博士が好きだからですよ』
「は……?」
『博士は、いつも私を見るたびに、苦しそうな顔をします。私なんかいなくなれば、博士はそんな顔しなくて済むのに、といつも思っています』
「……私が嫌な顔をするのは、別にお前が嫌いだからではないよ」
『私からすれば同じことです』
「違うんだ、……聞いてくれ。俺は、娘を自分の実験のせいで亡くしたんだ」
きっともう研究員のいずれかから聞き及んでいたのだろう、アルラは動揺もせずにただ俺の話に耳を傾けているようだった。
「俺が、あいつを、殺した。そのことを忘れないように、この実験に起用するアンドロイド…お前を、娘に似せて作ったんだ」
誰にも話したことのない、でもきっと誰もが知っているであろう心の内を、初めて自分からさらけ出した。当時離婚調停中だった妻にすら明かしたことのなかった、この心を。
「娘にそっくりのお前を見ることで、自分を罰していたつもりだった。でもそれは、ただの自己満足だ。お前にとってはいい迷惑だっただろうな……」
『いいえ。私のことは、博士の好きなようにしてください』
アルラはそういうと、薄い黄色のカチューシャを煌めかせながら、俺の手をその小さな両手で優しく包み込んだ。
「どうしてお前は、そんなことが言えるんだ」
『さっきも言ったでしょう』
『博士が好きだからだ、って』
俺はその日、初めてアルラの中の“それ”を消さなかった。