七回目の休日
悲鳴を聞いて娘のことを思い出し、立っていられなくなった俺は、実験現場から外されてしまった。逆さ吊りにされて顔がパンパンに腫れ上がった娘にそっくりのアンドロイドを見ながら呻く俺を、研究員が「代わります、休んで来てください」と実験室の外に引きずり出したのだ。
たまに起こるこのPTSD的症状のせいで、研究に支障をきたさないとも限らない。数日間のカウンセリングを経て、俺は研究所に帰った。
『博士、おかえりなさい!』
研究所に戻るなり、アルラがカチューシャを黄色く点滅させて喜びを表現しながらも、相変わらず平坦な声で話しかけてくる。
以前出かけた時に買い与えたネックレスを俺の目の前にかざして、ぴかぴかとカチューシャを光らせるアルラ。
それに傷ひとつ付いていないところを見ると、実験の時には、壊さないように、外してどこかに保管していたようだ。……替えが効かない、ものだからか。
「そんなに気に入ったのか?」
『はい。私がはじめてもらった贈り物、ですから』
「そうか。はじめてがこんな奴からですまないな」
『いえ、あなたがくれたからこそ、こんなにも嬉しいんですよ』
表情筋が付いていたならなど、残忍な実験を行なっている側の考えることではないが、アルラの嬉しそうな様子を見て少しだけ考えてしまう。もしもこいつが笑ってくれたら。娘そっくりの顔で、娘のように、あの日のように、はにかんでくれたら。
そして異常点滅が起こる。最近は、ますます頻度を増していた。
「アルラ、メンテナンスの時間だ」
『はい、博士』
ただちにそれを消去してしまおう。少し前に一緒に出かけた記憶も、念のため消してしまおう。
……一度はそう思ったが、ベッドで目を閉じて脳を俺に預けながらも、大事そうにネックレスを握りしめているアルラを見て、やはりその日の記憶は残しておくことにした。