六回目の休日
「博士!」
俺を見つけた途端、アルラのカチューシャはけたたましく以上点滅を示す。それは以前にも何度か起こったものと同じで、不具合ではないが実験には「不要な」プログラムだ。
「……またか。」
『どうかしましたか、博士?』
「いや、何でもない」
仕方のないことだ。この年頃の少年少女は、一番多くの時間を共に過ごす人間に恋をするものだと聞く。それだけこいつのコンピューターが、優秀だという証だ。
「……そんな風に、要らないものだけ消してしまえたら、どんなにか気楽だろうな」
俺はメンテナンスの準備を進めながら、ぼそりと呟いた。誰にも漏らす気の無かった弱音が漏れたことに、俺は自分自身でも驚く。
信頼や情愛なんぞはこいつにもちっとも持ち合わせてはいないが、それでも少し、少しだけでも、こいつならば聞いてくれるかもしれないと期待を持ってしまったのかもしれない。
一瞬考え込んだアルラのカチューシャは、緑色。ニュートラルな感情を示すそれは、彼女の冷静さをも示していた。
『博士は、私の立場が幸せであるとお考えですか?』
予想外の質問に、少したじろぐ。
「幸せ、幸せねえ…それは誰にも分からんことだ」
自分が記憶を操作されていると知っているのか知らないのか、アルラは私を見つめたきり黙り込んでしまった。
消しても消しても懲りもせず生まれてくるそのプログラムの異常…「情愛」を、今日もまた科学の力に任せて捻じ曲げようとしている。