六回目の実験
今回の実験は、引き続き精神面の影響を見るものである。
電気信号を操って無理矢理に動物を虐殺させ、その過程で心がどう壊れていくかを見るものだ。 ……行うのは仮想空間内でのことだが、もちろんのこと、本人には知らされていない。
実験開始から、経過すること一時間。
俺と研究員は、まるでゲームの操作をするかのように、動物とアルラを操っていく。
握られたナイフ。逃げる小動物。返り血に染まった金色の髪はべたべたと顔に張り付き、カチューシャの色は黒から白に変わりつつある。
『なんでこんな…したくないのにっ』
アルラの振り下ろしたナイフが突き刺さった動物が、びたんと一度跳ねた後、小刻みに震えて動かなくなる。
『博士、助けてください、助けてください! 私、システムが壊れてしまったんです!』
何度目かの悲鳴を上げながら、アルラがナイフを振り回す。
研究員の巧みな操作で、逃げ惑っているように見える動物たちが、どんどんアルラの手にしたナイフに自ら切り裂かれていく。だが、アルラはそのことに気がついていないらしい。
『はかせ…!』
強化ガラス越しにこちらを見上げるアルラの目には、何も映らない。カチューシャの色は、もう完全に白く……諦め果てていた。
アルラが自身を傷つけることも厭わずに必死に抵抗しようともがくせいで、その髪がナイフに切り落とされる。はらはらと床に落ちる金色の髪の毛に目を奪われていると、コントロールパネルからふと手が離れた。
「あ」
実験はあっけなく終わった。
信号の隙をついて、アルラがその胸を突いて自殺したのだ。
これまで死んできた動物たちの死骸と同じように、しばらくのたうち回って、血を撒き散らして、動かなくなる。
ああ、私もああすればよかったんだ。殺人犯なんか、この世に生きていてはいけない。
仮想空間の切り替えスイッチをオフにすると、アルラの周りに散乱していた小動物たちの死骸が消えて、あとは血まみれの体で赤い沼に倒れているアルラだけが残される。
ああ、あれが仮想空間での出来事なら、よかったのに。