表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一花繚乱  作者: 渡里あずま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/26

再会【二】

「説明して下さい」

「……さっきは、黙っていたろうが」

「家臣の前で、あなたの話の腰なんて折れません!」


 その日の夜。

 濃は、夜着姿の信長へとつめ寄った。逆に言えば、夫婦の寝所で二人きりなら問題ないという訳だ。そんな濃の視線の先で、信長が子供のように唇を尖らせる。


「控えめなのも、良し悪しだと思うぞ」

「……えっ?」

「おかげで皆はぬしのことを、わしのよ……いや、夫としか見ておらん」

「何を言いかけたかはともかく、事実じゃないですか」


 不満げに言った信長に、そんなことかと濃は笑った。結ばれて数年。信長が女だと知られない為には側室など作れないが、未だに信長が身ごもらない為に濃は(男だが)すっかり飾り物の正室である。

 けれど、信長が頬を緩めることはなく――むしろ頬を膨らませながら、睨むように濃を見上げて続けた。


「剣の腕も兵法も、随分と上達した……伴侶としてのぬしも好きだが、わしは男としてのぬしも好きなんだ」

「……欲張りですね」


 言葉同様、真っ直な眼差しが向けられる。初めて会ったあの日から、濃を捕らえて離さない黒瞳が。


「では、夫として妻の可愛いおねだりを叶えましょう」


 そう言うと、濃は信長に口づけて抱き寄せた――愛しい相手は目を閉じ、その身を委ねることで応えてくれた。

 ……そして雪が溶け、道三との会見の日を迎えた時。

 信長の影として、聖徳寺へ赴くことになった濃は――髪を下ろし、小袖に浅黄色の打掛を纏って家臣達の前へと現れた。


「おの……お館様、その格好は!?」

「似合わないですか?」

「いっ……いえいえいえ!」


 どこに草(密偵)が潜んでいるか解らない。

 だから、と咄嗟に言い換えた利家だったが、驚いていない訳ではない。いやむしろ、濃からの問いにどもって首を左右に振る辺り、大抵のことには動じない彼とは思えないくらい動揺している。

 ……無理もない。

 女に間違われることはない。そんな信長の言葉に反し、髪を下ろした濃は十分、美女に見えるのだ。


「これは、私が嫁いできた時に着てきた打掛です」


 そう濃が言ったのに、利家はハッと我に返った。そんな彼に、濃が笑みに双眸を細めて続ける。


「会見の場に赴くまで、父上の手の者……あるいは、父上自身が『信長』を見に来るでしょう」

「……っ!」


 噂通りのうつけと思われたら、道三の意表を突ける。

 そして濃だと気づかれれば、一対一で話し合える可能性が増す。


「どちらにしても、織田家に損はない……まあ、このお目汚しだけはお許し下さいませ」

「そっ……いや、はっ!」


 くり返すが、濃の女装は完璧だ。背こそ高いが、声さえ聞かなければ誰も疑わないだろう。

 現に『お目汚し』発言にどう反応して良いか解らず頷いた利家の横で、女好きであり恋敵(信長は知らないが)である藤吉郎は、濃に見惚れて真っ赤になっている。


「はー……って、俺は男色ではなーいっ!」

「おい、猿!?」

「……ふふ」


 そんな彼らに微笑むと、濃は馬へと乗った。

 ひらり、と翻った打掛は、まるで蝶のようだった。



 打掛姿の濃は足軽と弓兵、それから背丈よりも長い朱槍と、鉄砲を掲げた行列を引き連れてやって来た。戦をするつもりはないが、やはり最初の掴みは肝心である。

 一方、そんな織田勢を会見の場で出迎えたのは裃と長袴を身につけた、美濃の家臣八百人だった。整列した彼らの前を通りながら、濃は声に出さずに呟いた。

(こんなに仰々しくするなんて……これは絶対、父上、どこかから見てるな)

 ……とは言え、仮に自分だと気づかれたとしても、流石にこのままの姿で道三と会うつもりはない。

 それ故、寺に着いた濃は四方を屏風に囲ませ、髪と着物を整えた。その時、屏風を持っていた者達が赤面していたのはご愛敬である。

 そして颯爽と長袴をさばくと、会見の場へと向かい――直垂に着替えた濃に仰天する重臣達の中を進んで、父の前へと座った。


織田上総介信長おだかずさのすけのぶなが、参上致しました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ