表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一花繚乱  作者: 渡里あずま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

再会【一】

 政秀の亡骸を見て、遺書での謝罪を読んでも信長は泣かなかった。ただ、共に来た濃の傍らで、青白い頬へと手を伸ばし口を開いた。


「……解った。置いてゆくから見ておれよ、じい」


 微笑みながらのそれは、自刃した相手への彼女なりの許しだった。そして再び、政秀の顔に白布をかけると――唇を引き結び、毅然とした表情で立ち上がった。

 美濃との同盟は信長の父・信秀との間で交わされ、濃との婚儀を取り仕切った政秀により結ばれた。

 しかし二人とも、もはやこの世の存在ものではない。

(父上が……美濃の蝮が、動く)

 父子だからこそ、濃は誰よりも道三を理解していた。道三がその気になれば、たとえ濃がいたとしても躊躇なく尾張を攻めるだろう。

 それ故、同様に表情を引き締めて濃は信長の後を追ったのだった。



 政秀の死を、隠し通せるとは思っていなかった。

 しかし予想外だったのは、彼の死がうつけの信長を諫める為だと噂されたことだ。

(どうして、こんな噂が?)

 確かに、死の真相から信長が女性と悟られても困るが――それ程のうつけならば、と口実を与えてしまったのではないか。そう家臣達が不安に思っていると、城に使者が訪れた。

 それは道三からの、信長との会見の申し出だった。


「煽ってみたが……流石に、いきなり攻め込んではこぬか」

「……殿っ!」


 まさか、噂を流したのが信長自身だったとは――呑気に物騒なことを言う信長に、声を上げたのは林秀貞だ。政秀同様、父子二代に仕えている家臣だが、忠義一筋だった政秀とは違い、秀貞は信長の弟・信行を当主にと目論んでいる。

 ……しかし、ここで美濃と戦になっては廃嫡以前の問題で。

 それにもう一つ、秀貞達が今回の会見で懸念することがあった。


「会って、殿が女だと気づかれたらどうするのですかっ」


 現在、信長は二十二歳。

 女性にしては背が高く、闊達な所作のおかげもあり、一見、男性に『見える』。

 しかし、首や腰の細さはやはり女性のものだ。現に、草履持ちから家臣となった木下籐吉郎は(女好きのせいもあるだろうが)一目で信長を女性と見抜いている。


「まさか、鎧姿で会見の場に向かうことは出来ませぬし」

「……ハッ!」


 冗談にしか思えない発言だが、秀貞は真剣だった。もっとも笑いのツボに入ったらしく、信長は腹を抱えて笑っている。


「案ずるな、秀貞。女には間違われぬ」

「殿、間違いも何も、殿は……っ」

「昔なら、ともかく……今のお濃が、女に見えるか?」


 目尻に浮かんだ涙を拭いながらの問いに、秀貞は目を丸くした。いや、彼だけではない。家臣一同、そしていきなり名指しされた濃もきょとんとしている。

 そんな面々に、笑顔のままで信長は続けた。


「会見には、お濃を行かせる。今回だけではない。他国の武将と会う時は、お濃をわしの『影』とする」

「殿っ!?」

「……信長っ?」

「お濃は、わしが選んだ伴侶……名代には、最適であろう?」


 質問の形を取ってこそいたが、それは決定で。少なくとも、今回の会見に関しては実の父子と言うこともあり。

(……任せるしかあるまい)

 当の濃以外の家臣達は、半ば観念して頷いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ